私は長い間にわたって蝶の生態観察をしています。
メスの成虫は1000個程度の卵を産みます。
そこから2頭の成虫が誕生すれば・・・
オスとメスが1頭ずつ成虫になれば、「家系」は滅びません。
2頭の成虫を残すことを願いつつメスは1000個の卵を産む。
低い低い生存率への挑戦です。
孵化しない卵もあるでしょう。
初齢幼虫は、ちょっとしたことで事故死します。
大雨の中、雨粒があたって地上に落ちたら・・・溺死する可能性大。
成長過程でアリに連れ去られ、ハチに拉致され、カメムシに体液を吸われる。
クモに襲われることもあるし、鳥の腹を満たすこともあります。
寄生蝿や寄生蜂に卵を産み付けられ、成虫になることがない個体も。
そういう危難をかいくぐって成長した幼虫はエリートです。
写真はミカドアゲハ Graphium doson の4齢幼虫。
あと1回脱皮して終齢幼虫になれば、次は蛹化。
寄生されていなければ、羽化して成虫になるのです。
けれども、このエリート候補生の幼虫はいなくなりました。
オガタマノキ*の葉上には黒い体液の痕。
おそらくハチに襲われ、拉致されたのでしょう。
きっとハチの幼虫を成長させる栄養源としてハチの繁殖に貢献したに違いありません。
蝶は、こうした数多の屍を積み重ねつつ、美しい姿で舞っているのです。
*我が家のオガタマノキはミカドアゲハのために植えているもの。
ほかにはタイサンボクも食樹になりますが、カラタネオガタマは食樹にはなりません。