司法書士に相談する方々は、なにがしかの不安を抱えています。
相談を受ける側が、さらに不安を煽ったらどうなるか?
抱いていた不安が、相談を受ける側に対する不満に変わります。
ですから、不安を煽るような発言はタブーです。
まず、相談者の言葉を受けとめる。これは当たり前でしょう。
次に、事実(動かない)と想像(相談者の不安の源の場合が多い)、感情に分ける。
問題は、想像の部分にあり、事実と結びついているかどうか検証します。
この種の相談に慣れている司法書士であれば、この時点でかなり不安を解消できるはずです。
そのうえで、なすべき必要なことを確認していきます。
「ああ、こうすれば問題はなくなるのだ」
と思ってもらえるかどうか。
ただし、解決方法にも当然ながら将来のリスク要因が含まれるケースがあるのです。
そのリスクが内在しているのかどうか、これを相談者との間で確認します。
なければ解決に向かうだけです。
あるとすれば、その対処方法を検討します。
たとえば、将来自分が死んだ際の相続について相談を受けたとします。
子供たちに争って欲しくないと相談者Aは考えています。
でも、生前の段階で子C及び子Dに相続を放棄させ、子Eに相続させることを決めるのは無理。
生前放棄の制度はないのです。
そこで、Aの希望を実現するためには、まずは遺言書。
これで「Eに相続させる」と自らの意思を明らかにしておきます。
それでも、CとDは遺留分侵害額の請求権を持っています。
これを行使して欲しくない(争って欲しくない)Aとしてできることは?
これは親子のしっかりとした話合いです。
そもそもCもDも「Eが相続することでいいよ」と言っているとしたら?
十分ではないでしょうか。なんとか遺留分侵害額請求権を封じる手段を講じるか?
Eに財産を信託するという方法も考えられます。
けれども、これとて将来のリスクを完全に消すことはできません。
CとDがAと良好な関係を継続しており、妻BもEが相続することに賛成している。
こういう「事実」を確認できるのであれば、遺言書を作ることで十分でしょう。
遺言書とは別に「AからCとDへの手紙」を遺しておくというのもよい方法です。
「自分が亡くなって、君たちはこの手紙を読んでいると思う。
不動産は生前の話どおりにEに相続させる。
君たちも賛成してくれたとおりに遺言書を書いておいた。
相続登記などがスムースに進むよう、君たちもEに協力してやってほしい。
それがお父さんの願いだ。」
リスクをたくさん示し、オプション契約等に誘導するように不安を煽るべきではありません。
不安を煽って、報酬が高額になるように誘導する。
消費者契約などに関心があれば、絶対にタブーだとわかる行為です。
これにAが気づいたら怒り心頭でしょう。
不安を不満に変えない、あるいは子供たちが感情的に納得するような方法を考える。
これらもまた司法書士なら備えておくべき資質でしょう。
社会心理学などの基本的な本を読めば、簡単に身につけることができるはずです。
その際、漫然と読むのではなく、自分の相談業務の姿勢を検証することが重要です。
また、紛争処理の経験を積めば、自ずと当事者の心理を読み、忖度する技術は高まります。
自分の資質を磨くという意味でも紛争処理に関与することは大事だと思うのです。
★ これらは学ぶのに最適な教材です。
ただし、経験を積んだうえで読むか、読んだうえで実際に経験しないと「実感」が湧かないでしょう。