司法書士は、裁判所や法務局に提出する書類作成の専門家です。
だから、裁判所に提出する書類の書き方に精通しているか?
実は、意外に知らない人が多いようなのです。
我々司法書士は研修を年に何単位分受講する、という義務があります。
その研修のなかには、裁判書類作成に関するものがあるのです。
講師を務める司法書士が、自ら使った書式などをたくさん提供します。
受講者は、これらを利用して書類作成をすればいいのです。
司法書士の多くは実務書をよく読んでいます。
実務書を通じ、また実際の実務経験を通じて知った知識を惜しげなく提供してくれる・・・
のはいいのですが、「あらら?」と思うことがしばしばあるのが実態。
今日は、正しい書類の形式の紹介です。
番号体系
まず、「おいおい」と思ってしまうのが、番号体系に関して。
たとえば、
第1 請求の趣旨
1 被告は、原告に対し、(以下略)
のような記載をみかけます。
これではいけません。
正しくは、
第1 請求の趣旨
1 被告は、原告に対し、(以下略)
です。
ほかにも、
1 本件訴訟に至る経緯
のように書くべきところを
1.本件訴訟に至る経緯
のように「.」を使ってしまう人も少なくありません。
番号体系は、「第1 1 (1) ア (ァ) 」なのですが、これが守られていない例も目にします。
ある部分では「1(1)」としながら、他の部分では「2①」になっているのはお粗末過ぎです。
文字数・行数・余白
この時代に手書きの訴状や申立書を作る人はいません。
誰もがワープロソフトを使います。
その場合、文字数は1行37文字です。
行数は1頁に26行。
ところが、研修で提供される資料の多くは、これが守られていません。
つまり、このあたりはテキトーなのです。
もちろん、裁判所から注意されるような話ではありません。
けれども、
「ああ、司法書士は裁判書類に関するかぎり素人だな」
と思われている可能性はたぶんにあるのです。
わざわざいうまでもないのですが、用紙はA4で横書きで作成。
文字は12ポイントです。
私は、司法書士作成のもので、明らかに10.5ポイントのものをみたことがあります。
これはやめておいた方がいいでしょう。
また、レイアウトの余白設定は、上が35mm、下が27mm、右端は20mmで左端は30mm。
これが標準です。
余白のことまではなかなか検証できないかもしれません。
けれども、文字数と行数は、裁判所作成の書面をみればわかります。
でも、誰もそこに気づかない・・・のはちょっとどうなのかな?
と思ってしまうのです。
段落の使い方
段落に関しても、「失敗作」をよく目にします。
第2 被告の反論
1 甲2号証について
原告は、甲2号証をもって被告との間に(以下略)
2 原告主張事実の不存在について
(1)乙3号証が示す事実
被告は、乙3号証のとおり(以下略)
というような形で作ります。これが正解です。
決して、
第2 被告の反論
1 甲2号証について
原告は、甲2号証をもって被告との間に(以下略)
2 原告主張事実の不存在について
(1)乙3号証が示す事実
被告は、乙3号証のとおり(以下略)
ではありません(どこが違うかはよくみてください)。
また、段落を変える際に文頭を1文字分空けていないようなケースにも遭遇します。
これも好ましくありません。
なぜレイアウトにこだわるか?
ここまでうるさくいわなくても問題はないじゃないか!
と思う人がいるかもしれません。
しかし、裁判所に提出する書類です。
裁判所が「正しい」としている形に合わせるのが常識でしょう。
そして、きっちりとその形式を守っている書面は「好印象」なのです。
「なんだ、素人か」
という印象を与えないこともプロである以上は大切なのです。
また、事実関係や主張を整理する意味でも裁判所の形式に従うべきです。
そうすれば、自分の頭の中も整理できるのです。
私が最初に驚いたのは、特別研修の時期でした。
簡裁代理権を得ようとしている受講生が、番号体系すら知らない!
これにはショックを受けました。
そして、誰も誤りを指摘しませんでした(できなかったのでしょう)。
私は黙ってそれをみていました。私は意地悪なのです。
実務書を読むのは得意という人が多い世界です。
民事訴訟関係の実務書をみたらいいのに・・・と思ってしまいました。
そして、今もそういうことを感じることがしばしばです。
裁判所が作った「生の書面」という格好の教材に触れる機会があるのです。
それを教材にしない(できていない)のはもったいない話です。
★ こういう本まで出ています。
司法書士が法律文書作成のプロを名乗るなら、この本に書いてあることについては知悉していなければ。
私自身の姿勢
私は、この点に関してはプロであるという自負があります。
経験していない裁判書類作成を打診されたことがありました。
「先生、こういうご経験は?」
「やったことはないですね」
「じゃあ無理ですか?」
「いえ、大丈夫です。私はプロですから」
要件事実を漏らさぬよう関係する条文を確認。
そして、起案です。
その後に弁護士と司法書士が使うアンチョコ本で確認しました。
間違いはありませんでした。
「ほらみろ、俺はプロだからな」
というのは独り言。
ちなみに、上記のアンチョコ本は市販されていません。
資格を有する人に対してのみ出版社がダイレクトセールスで売るのです。
テレビでインタビューを受ける弁護士や司法書士の背後に並ぶ金文字の厚い本です。
あれがアンチョコ本です。
答合わせにアンチョコ本を使う。
私のアンチョコ本の使い方です。
金文字の分厚いアンチョコ本が
「インテリアにちょうどいい」
「権威づけになる」
という話も聞いたことがあります。
これらに対するコメントは差し控えることにいたします。