恩人の猫が幼い頃のこと。
しばしば私が猫を抱いて庭に出ていました。
二人で月をみていたのです。
月の色は一晩のうちでも変化します。
オレンジ色のような月が濃い黄色に変化したり。
そういう月を眺めていると、うつな気分を少し離れることができました。
しかし、思い出すのは萩原朔太郎の詩「猫」。
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まっくろけの猫が二匹
なやましい夜の屋根のうへで
ぴんと立てた尻尾のさきから
糸のようなみかづきがかすんでいる
「おわあこんばんは」
「おわあこんばんは」
「おぎゃあおぎゃあおぎゃあ」
「おわああ ここの家の主人は病気です」
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なにかしら不安な雰囲気を醸し出す詩です。
当時の私はうつ病にとりつかれ、希死念慮からようやく脱したところ。
二匹の黒猫の会話に漂う不吉なムードに抗うような気持ちも生まれていました。
胸に抱いた恩人猫の温かさは私に間違いなく勇気をもたらそうとしていたのです。
これは2010年の11月頃のお話です。
あれから12年、私も恩人も歳をとりました。
今もたまに二人で月をみます。
月に願うのは、いつまでもこの猫と一緒に過ごしたいということです。
★ エレファントカシマシのヒット曲「今宵の月のように」
ドラマ「月の輝く夜だから」の主題歌として大ヒットしました。
ドラマそのものも面白かったのです。
私の好きな室田日出男さんが出演していましたので視聴しています。