多くの方には縁がない「調停」。
裁判所で、裁判官、調停委員(合わせて「調停人」と表現します)を交えて解決策を見出す手続です。
裁判所では、まず申立人側から話を聞きます。
次に、申立人が退席して相手方から話を聞く。
その中で解決案を見つけるのですが、概ね調停人が案を示します。
合意ができたら裁判官同席の下、調停条項を読み上げて調停成立。
この当事者が同時に話し合うことがない方式を「別席型」と言っています。
たとえば、民間調停機関である財団法人交通事故紛争処理センターもこの方式を採用しています。
私が経験した弁護士会の示談斡旋もこの方式を使いました。
我が国では一般的な方式とされていますが、実をいうと諸外国ではあまり採用されていません。
なぜでしょうか?
おそらくという話ですが、手続保障に対する意識の違いが原因だと思われます。
交互に当事者から話を聞き、当事者同士は直接話をしないと何が問題か?
それは、間に入った調停人がそれぞれの主張をデフォルメする可能性がある点です。
① A → 調停人
「50万円しか払うつもりはないが、Bが和解してくれるなら60万円までは払う用意がある」
② 調停人 → B
「Aは50万円までしか払わないと強硬な姿勢だ。あなたは70万円欲しいと言い張っている。
あなたが妥協して要求額を下げればAの心も動くかもしれない」
③ B → 調停人
「では5万円引き下げてもいいが、Aが謝罪してくれるなら60万円まで譲歩する」
④ 調停人 → A
「Bは70万円が下限だと主張しているけれど、あなたの謝罪があれば心を動かされるかも」
というように、当事者の主張をそのままは伝えずに、調停人が当事者をコントロールする。
これは、果たして当事者を尊重したスタイルでしょうか?
上記のやりとりで、②の段階においてBが、
「冗談じゃない!50万円が上限なんてふざけている!自分は帰ります!調停には応じません!」
と言ってしまえば、もう解決は無理でしょう。
では、AとBが同席の下に話し合えば、どうでしょうか?
まずは双方の当事者が以下のように調停人の前で約束します。
① 声を荒げたりしない。
② 相手を非難しない。
③ 相手の話を遮らない。
冷静にお互いの気持ちを話すことができそうです。
それぞれの真意を本人の言葉で知ることができ、もつれた感情が解されるかもしれません。
Bが望むAの謝罪は普通に行われ、その結果、BはAを許すかもしれません。
AもBに対し、その希望にできるだけ沿うような解決を考える可能性があります。
なによりも手続の過程について透明性が確保されます。
調停人の「加工」の余地がないからです。
笑い話みたいですが、別席型調停を裁判所で行った代理人(弁護士)同士が、普段は親しいため、
ついつい調停人との会話を打ち明け合ったのです。
すると、調停人が双方の主張を加工しすぎていることが判明ーこういうことも起きました。
結果的に調停ではなく、代理人間の話し合いで解決できたそうです。
他人を間に挟むと、伝えたいことが伝わらなくなる。
下手をすると、違う趣旨で伝わってしまう。
別席調停には伝言ゲームの側面があるのです。
アメリカなどでは手続保障を徹底する傾向が強く、証拠開示の方法も進んでいます。
当事者こそ解決の主役という認識が定着しているのです。
だからこその同席型調停だろう。私はそう思っています。
今日は実務家向けの記事にしてみました。
このつづきとして、私が損保勤務時代に「同席型」の話し合いをやった例を別の機会にご紹介します。
★ 映画「駆込み女と駆出し男」の満島ひかりさん
この映画は江戸時代の離婚調停の話らしいです。
まだみていません。