「リーガルマインド」?
「リーガルマインド」なる言葉があります。
この言葉を使う人は、その意味をわかっているか?
私がこの疑問を抱くのは、人によって言葉の定義の仕方が異なるからです。
おおむね共通するのは「法的思考力」という意味が含まれることでしょう。
あとは人それぞれに「リーガルマインド」という言葉を使っている印象です。
そこで、ここではリーガルマインドの中核を「法的思考力」であることを前提にしたいと思います。
★ 書籍名にも「リーガルマインド」がついたものがあります。
弥永教授の「リーガルマインド会社法」は、ひところは司法試験受験生の間で大変人気がありました。
では「法的思考力」とは?
では、「法的思考力」とはいったい何を意味するのか?
法律家は未知の法律を使う機会が多いのです。
試験で問われる憲法・民法・刑法といった法律だけを知っていれば済む世界ではありません。
試験で課される法律科目は、基本中の基本。
これらを理解できていれば、関係する未知の法律にも対処できる。
こういうことを意味しています。
特に上記の三法は重要です。
民法の理解は商法や会社法の理解の基礎です。
また、民事訴訟法を理解する上でも必要になります。
破産法をマスターするには、民法・会社法に加えて民事訴訟法の素養が必要。
刑事訴訟法の理解のベースは憲法であり、刑法の知識も必須。
そして、法律そのものをどう捉えて解釈するかの基礎は憲法の理解次第です。
こういった幅広い科目の理解を踏まえ、考え方を深めることで身につく力は以下のようなものです。
① 主張を事実と意見に分ける。
② 争点となるべきポイントを見出す。
③ 事実に関しては裏付ける証拠の有無とその信用度まで確認。
④ 意見の部分を法的に構成できるかを検討する。
これら①~④が法的思考力だと私は思っており、これができなければ法律家たりえません。
特に、他人と権利を争うようなケースでは苦労する以前にお手上げではないかと思います。
司法書士の法的思考力
では、司法書士に「法的思考力」はあるのか?
こういうことを考えたのは、いくつかの会話等に基づきます。
「そもそも法は」と考えれば、その問題をどう捉え理解するかは答えが出るはず・・・
そういうタイプの問題(試験ではありません)にうまく答えを出せない例をみたからです。
「なるほどな」
と私は腑に落ちました。
基本三法では試験のために民法をある程度しっかり勉強しただけ。
でも、有名学者が書いた体系書などは読んでいない(試験ではそこまで求められない)。
憲法や刑法に関してはさほど興味を抱かない(試験では「捨てる」人もいる)。
試験の出題もクイズに毛が生えたレベル。
科目横断的に理解をしないため、知識が網目のように繋がっていません。
こういう人だと、自分の頭の中にある知識に答えを求めようとします。
つまり、試験の際に詰め込んだ知識を引っ張り出そうとする癖がついているのです。
しかし、これでは、相談者の話を整理できない可能性があります。
司法書士の法的思考力は意外にも「怪しい」可能性があるのです。
そして、その原因は試験制度にあるのかもしれません。
司法書士試験の欠点は、知っているかどうか?という出題ばかりである点です。
①~④のような作業を伴う出題は一切ありません。
簡裁訴訟代理権を得るための考査は、ある程度はこういう作業を求められます。
けれども、非常に易しい出題です。
受験する側が、③と④の能力を欠いていても合格できます。
②は問題文から明らかで、考えるまでもない内容になっています。
だから合格率は高く、落ちる人は珍しいとされる試験なのです。
そうすると、法的思考力をどう磨くか。
これが司法書士の大きな課題であるような気がします。
あるいは、司法書士は法律家であることを求められていないのかもしれません。
試験の制度設計をみるかぎりは、そう感じます。
必要な法的思考力
ですが、私は司法書士には法的思考力が必要であると考えています。
弁護士よりも敷居が低く、相談しやすさがある司法書士です。
相談者の悩みを正確に捉え、冷静に分析し、そして法的に構成する。
これができなければ存在意義がなくなります。
そうすると、司法書士は自ら法的思考力を磨かなければなりません。
それをどうやって実行するか?
それは偏に各司法書士の判断にゆだねられているでしょう。
人それぞれです。磨き方は十人十色。
各自のリーガルマインドを作るほかないのです。