実務書はなにを?
私如きでも後輩から質問を受けることがあります。
「これからまず読むべき実務書はなにがいいですか?」
質問者に訊ねました。合格までの勉強ではどういう本を読んできたのか?
「私はオー●マを基本書に・・・T▲CのXX先生の講義をWEBで受講して・・・」
という答えでした。
心配なのはこの後輩さんの理解度です。
実務書を読むには,その前提として基礎の正確かつ深い理解が必要なのですが,
予備校本や予備校の講義でそれが十分なのかどうか?
実務書を読む前に
このブログでも「ちゃんとした本」を読む必要があることを何度か述べました。
司法書士になると,試験科目ではない法律についての仕事をすることになります。
そういう各法律をスムースに咀嚼し,十分な理解の下に仕事を進めるうえで,その基礎は試験勉強でできているはず。
ですが,その基礎を予備校本で作っているとか予備校の講義で作っているとすれば,基礎としては危うい印象です。
私は常々そう思っていましたが,私のような考え方は少数派です。
予備校本に載っているまとめの表などを使って要領よく勉強することが正しいという風潮があります。
この点についてある弁護士さんが,以下のようなことをネット上で述べています。
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最近のいわゆる司法試験予備校のテキストは,以前に比べれば良く出来ているものが多いです。
答案例があったり,表やフローチャートがあったりして,わかりやすいですが,これを基本書にしてはいけません。
実務家になってから,参照できる本では到底ありませんし,内容にひょっとしたら誤りがあるというリスクもあります。
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私も同感です。
たとえば,債務整理をやるうえで破産法や民事再生法の勉強は我々に必須ですが,これらの「予備校本」はありません。
司法試験用のものがあるので,それを使って勉強するという人がいるかもしれません。
しかし,上記の弁護士の言葉のように信頼性については絶対ではないのです。
後見開始の審判等の手続きを知る前提としては家事事件手続法を学ぶ必要がありますが,
この法律については司法試験の科目ではないため,それ用の予備校本すら存在しません。
また,いずれの法律についても司法書士受験予備校の講義などもありません。
つまり,「ちゃんとした本」をしっかり読むしか方法はないのです。
これが予備校本や予備校の講義に慣れた人にはつらいのかもしれません。
たしかにいきなり実務書を読んでも書類の書き方や手続きの概要はすべてわかるでしょう。
しかし,その理解の程度を考えると,前提としてしっかりした基礎的な学習があるのとないのでは大違いだと思います。
そういう意味で「ちゃんとした本」は絶対に必要だと思います。
我妻榮=タイムトラベラー説
最近手にした実務書にこういうコラムが載っていました。
↑そこにはツイッターでのある実務家の発言が紹介されています。そのまま引用します。
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我妻民法は,ある程度リサーチしたけど分からなくてうんうん悩んでいるときに,
「いやいやそんな何十年も前の本に書いてあるわけn・・・書いとるやんけ!」ってことが
時々あって,この人タイムトラベラーなんかなって思うことある。
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結局,最後には我妻民法(岩波書店から出ている「民法講義」のシリーズ)が頼りになるのです。
改正法に対応していないため,そのままは使えませんが,考え方の基礎を知るうえでは,
今も我妻榮博士の著書は最高の参考文献になるということでしょう。
職務上の誠意
今の時代に我妻榮・兼子一・鈴木竹雄・団藤重光といった過去の碩学の著書を読む必要があるかどうか,
この点には考え方が色々あると思います。
私は,必ずしも上記の大先生のご著書である必要はないと思っています。
学生用に書かれたわかりやすい本で十分でしょう。
「ちゃんとした本」をしっかり読んで正確かつ深い理解を得る努力だけは常に怠らない。
これが不特定の依頼人に対する司法書士の誠意のように思います。