「さよならを言うことは少しのあいだ死ぬことだ」
これはレイモンド・チャンドラーの「長いお別れ」に出てくる主人公の言葉です。
死が永遠の別れを意味するのであれば,「さよなら」は一時的な死と同じという意味です。
しかし,「さよなら」を言うことによって永遠に別れてしまうこともしばしば起きます。
「少しのあいだ死ぬことだ」とすれば,それは再会を予定していることになるでしょう。
★ NHKドラマ「ロング・グッドバイ」の浅野忠信さんと綾野剛さん。
劇中で福島リラさんが歌う曲のタイトルは「さよならを言うことは」
私自身の経験を顧みると,
「さよならを言うことは二度と会う気がないという意味だ」
というケースが多いような気がします。
私はチャンドラーの長編はすべて読んでいます。
その内容はまずまず好みですが,どこか甘さを感じるのはこの辺の感覚の違いかもしれません。
「青春の門 筑豊編」で主人公伊吹信介が親しく接していた金朱烈に
「信介君,さようなら」
と言われる場面がありますが,これは
「君と私の歩む道は二度と交わることはないよ」
という宣言でした。
こちらの方がしっくりきます。
★ 映画「青春の門」で金朱烈役を演じたお二人です。
東宝版では河原崎長一郎さん,東映版では渡瀬恒彦さんが演じました。