私がよく読む分野のひとつにエスピオナージがあります。
一種のスパイ小説ですが,それにとどまらず政治スリラー的なものも含む呼び名です。
映画ではジェームズ・ボンドの007シリーズが有名ですが,初期の作品を除くとお子様向けです。
活劇映画というべきで,エスピオナージではありません。
私が好むのは,その種の仕事に生きる個人を深く書き込んだ小説です。
登場人物の個性にみられる人間的な歪みが非常に魅力的です。
国内の作品にもその種のものがありますが,あまり面白くありません。
登場人物のキャラクターが弱いのです。
翻訳ものが面白いのは,おそらくナチスやソ連といった「悪」の設定に強烈さがあるからです。
「悪」と表現したものの,これはひとつの見方でしかありません。
ナチスやソ連からみれば,英国のMI6は悪の巣窟です。
謀略と情報戦に携わる登場人物たちはなぜそれを生きがいとしているのか?
そこまで命を張ることができる理由は?
でも,結局は彼らも国家の部品のひとつでしかない。とりかえはいくらでも可能。
そういう冷え冷えとした読後感がなぜか好きなのです。
ロス・マクドナルドのハードボイルド小説とともに10代後半から読み続けています。
ただし,ロス・マクドナルドの活躍は1970年代半ばまで。
エスピオナージの大家エリック・アンブラ―は1998年に亡くなりました。
巨匠ジョン・ル・カレも昨年亡くなりました。
デズモンド・バグリィも既に亡く,ケン・フォレットは徐々にこの分野から離れてしまいました。
よって,映画同様に古い本を読み直したり,未読の作品を渉猟する状況です。