損保会社の管理職だったときのことです。
会社の代理人としてある求償金請求訴訟の第一回弁論に出ました。
裁判所に行ったことがないという女性社員を見学者として伴いました。
それで、せっかくだから証人尋問を傍聴してみるか、という話になりました。
法廷のドアについている小窓から覗くと、ちょうど尋問をやっています。
傍聴席に二人で腰かけて聞いていると、一方の代理人が
「あなたは結婚後、ほどなく奥さんと別居しましたね」
と尋ねました。
「はい」
「どうしてですか?」
「性格の不一致・・・です」
「ほう、そうですか。ところで、あなたは●●という若い男性と同居するようになりましたね」
「はい」
「どうしてですか?」
「元々親しかったからです」
「ほう、ですが私の調査ではそういう理由ではないようですね。
あなたはその●●と知り合って間もなく一緒に暮らし始めましたね」
「・・・」
「あなたはホモじゃないんですか?」(当時の表現をそのまま再現しました)
私と部下はギョッとした表情で顔を見合わせました。
当時は普通に使っていたにせよ、インパクトは十分でした。
そもそもこの訴訟は何が争点なのか?
特に気にすることなく証人尋問がどういうものかをみせるため、たまたま選んだ法廷でした。
傍聴しても、その事件のストーリーを書いた紙が配られるわけではありません。
訴状についても法廷で読み上げたりはしません。
実は、公開主義といっても傍聴人には何がなんだかわからないのです。
その中で、ストーリーを把握するには証人尋問が一番です。
しかし、この事件はどういう事件なのかよくわかりませんでした。
勤務時間の都合と言葉のインパクトに早々に席を立ったためです。
これ以上は傍聴してはならないような気がしたためでもあります。
★ 佐野史郎さん
ドラマ「誰にも言えない」では現在禁句となった言葉を使ったセリフが飛び出しました。