2つのケースの概略的説明
【ケース1】
生活保護受給継続を目的として婚姻関係を解消するためのAとBの離婚・・・〇
【ケース2】
子Cを嫡出子にするのみが目的で,婚姻関係を真に形成する意思なくABが婚姻・・・×
これらが最高裁の結論であることは司法書士及び司法書士試験受験生は皆知っています。
さて,この差はどうして生まれたのか?
これを説明できる人が意外に少ないのは司法書士試験が知識偏重型の試験ゆえかもしれません。
いずれのケースも役所にその届けを出す意思はAとBで一致しています。
ですが,【ケース1】では生活保護受給継続目的とはいえ婚姻関係を解消する意思の一致があるところ,
【ケース2】では専ら子Cを嫡出子とするのみが目的で,AとBに婚姻関係を形成する意思がありません。
実は,この差くらいは説明できる人もいることにはいるのです。
そして,この程度の説明はできて当たり前でしょう。
その先を考えてみた
ですが,もっともっと考えてみる必要があるように思います。
便宜上,離婚に先行する婚姻から考えます。
婚姻には①貞操義務,②協力扶助義務が伴います。
この点は内縁と変わりがありませんが,違いは以下の諸点です。
すなわち,③相互の相続権,④子の嫡出性,⑤同氏の原則,⑥姻族関係の形成。
そして,①②と③以下には明確な差が認められると思うのです。
それは,①②は飽くまでもAとBの関係における問題であるところ,
③以下は対外的に第三者にも影響を与える内容なのです。
そうすると,婚姻には内的な問題に終始するものと対外的に効果を及ぼすものが含まれていることになります。
これを【ケース2】でみると,AとBには対外的に影響を与える制度的効果を望むものの
内的な効果(つまり①と②)を求めないことになり,婚姻意思としては成立していないといえそうです。
なお,以上からわかるように内縁は内的な効果のみを望む場合です。
この婚姻にかんする分析を離婚にあてはめてみます。
【ケース1】のAとBは離婚後も生活保護受給を継続しつつ内縁関係であろうとしています。
これは,制度的な効果をなくすことを望み,また,婚姻から内縁という新しい形への移行を目指しているということでしょう。
つまり,婚姻関係を完全に解消し新たに内縁関係に移行する意思を有しているということになります。
ゆえに離婚としては「無効ということはできない」という結論になるのです。
以上は司法書士試験合格直前の頃に考えた内容でした(寝ながら考えたので荒い分析かもしれません)。
正しかった!
「家族判例百選」を読んでも必ずしも上記のような説明ではなかったのですが,徳田和幸・梶村太一編著
「家事事件手続法(第3版)」の人事訴訟手続各論で若林教授がほぼ同旨の説明をしておられました。
種々の家族法の教科書類では詳細な説明まではされていません。
上記の判例解説でも具体的な分析は行われていなかったので,それを確認でき,
かつ自分の考えが概ね正しかったということで,非常にうれしく感じました。
判例や書物を読むことによって自分の考えの当否を確かめる,あるいは,理論的理解を深める。
これが法律学習の醍醐味であるように思う次第です。
★ 堂々750頁と大部の書物です。
共著ゆえの著述のばらつきはありますが,概ねわかりやすく使える本だと思います。