私が24歳のときに発生した交通事故の話です。
「バイクを運転している女子高生をはねた」
という通報があって救急車がその女性をある大きな病院に搬送。
骨折箇所をすべて確認するためにX線撮影が行われたのでした。
ところが・・・その女性は妊娠中の主婦。
本人も妊娠の自覚はまだなかったのですが、医師は女子高生と思い込んでいたのです。
妊娠しているわけがない。そういうことで問診を怠ったのでした。
主婦であることがわかっていれば、検査の方法は変わります。
医師としては痛恨のミスでしょう。
胎児への影響を懸念して女性は中絶を選びました。
その件を担当した私が、女性の母親から聞かされたのは
「もう子供ができなかったらどうしよう?
せっかく来てくれた婿さんが(実家に)帰ってしまうかも」
という言葉でした。
農家に後継ぎとして婿養子を迎えたという話です。
骨折はひどく、観血的な手術が2度必要でした。
女性は当時20代半ば。
化粧をあまりしない人のようで、高校生にみえなくもありませんでした。
夫は人が好さそうな、まだ少年の雰囲気が残る若者。
妻が心配でならないようでした。
この家族からはひとことも加害者への恨み言を聞いていません。
でも、病院に対しては憤懣やるかたない様子でした。
「病院と医師に対して過失に基づく損害賠償請求が可能かも」
という話をしましたが、それも「治療してもらっているのに申し訳ない」というような人たちです。
根っからの善人という印象でした。
治療には時間がかかるため、月1度くらいの電話連絡を続けました。
徐々に回復していく様子はわかっていたのですが、ある日のこと母親から電話が入りました。
「高橋さん、娘がまた妊娠したんです!もう本当にうれしくて」
私もホッとしました。
その後は抜釘術を経て、治癒状態となり、スムーズに示談を終えました。
解決までに事故発生から1年半程度を要しました。
帰り際に野菜をたくさん頂いたことを覚えています。
常に慎重な確認が必要であることをしっかり学んだケースでした。
★ 映画「八甲田山」の1シーン
北大路欣也さん扮する神田大尉の発する言葉はあまりにも有名
「天は我を見放した・・・」