福岡県糸島市 司法書士 ブログ

映画の錯誤

刑法では錯誤理論が大きな論点です。

今日は錯誤でも映画の話でして,タイトルと内容の不一致について書きます。

過激なタイトルにソフトな内容

タイトルが凄まじいわりには内容がおとなしめの映画といえば

「日本暴力列島京阪神殺しの軍団」(1975年 山下耕作監督)

ではないかと思います。

実在した在日韓国・朝鮮人中心の柳川組をモチーフに制作された映画です。

実際に柳川組は少人数で大きな組織に殴り込んで「驚異的な成果」を挙げています。

それゆえ「殺しの柳川組」と恐れられたのです。

しかし,上記の映画は意外にソフトなつくりです。「看板に偽りあり」の印象です。

現実とは異なり,小林旭さん率いる花木組は大組織天誠会に使い捨てにされそうになります。

盟友梅宮辰夫さんを殺されるに至って大組織に牙を剥く決意を固めます(ここで映画は終わり)。

そこには在日韓国・朝鮮人にたいする差別への批判が込められているようでした。

しかし,映画の中盤ではこの視点が一旦抜け落ちてしまいます。

もっとその点に切り込んで作れば「名作」になった可能性があるだけに惜しい印象です。

煽情的すぎるタイトルに拍子抜け

ほかにも

「狂走セックス族」(1973年 皆川隆之監督)

というとんでもないタイトルの映画がありますが,これも「看板に偽りあり」の類です。

実態はバイクを飛ばす青春映画であり,エッチなシーンがてんこ盛り・・・ではないのです。

脚本も手掛けた皆川監督が最初につけたタイトルは「狂走族」。

それを当時の岡田茂東映社長に提出したところ「セックス」の4文字が付け加えられたそうです。

こうなるとお客さんの興味をひくためならなんでもありで,「客の錯誤」狙いというほかありません。

タイトルと内容は別物

さらにとんでもないのが

「唐獅子警察」(1974年 中島貞夫監督)

でしょう。タイトルの「唐獅子」はおろか「警察」すら登場しない映画です。

小林旭さんと渡瀬恒彦さんが演ずる異母兄弟の相克を描く内容です。

人気劇画からタイトルだけを拝借したもので,劇画の内容とは無関係らしいです。

でも映画そのものは結構面白いのです。

気になるのは,彼ら一家が地元ではひどく差別されてきたという点です。

その理由は描かれません。

この点をしっかり描写すれば,もっと面白い映画になったようで残念です。

ちなみに渡瀬さん演ずる「松井卓」という役名はその後も別の映画に登場します。

演じたのは川谷拓三さんでした。

川谷さんは松井卓役を演じた「県警対組織暴力」(1975年)でスターへの道を歩み出しました。

なお,2人の松井卓は役名だけが同じ。何のつながりもありません。脚本家も異なります。

不完全燃焼の結果

「日本暴力列島京阪神殺しの軍団」そして「唐獅子警察」で十分に描けなかった題材,

それらは「仁義なき戦い」シリーズでも手をつけられなかったテーマ「差別」でしょう。

「仁義なき戦い」で不完全燃焼だった監督深作欣二&脚本笠原和夫コンビが送り出したのが

「やくざの墓場 くちなしの花」(1976年)

渡哲也さんが歌う「くちなしの花」がエンディングテーマなので歌謡映画だと勘違いしそうです。

しかし,内容は在日韓国・朝鮮人やくざと警察組織内の不正がテーマです。

かなり硬派なつくりになっています。

この作品でも辰兄ぃが在日韓国人やくざを演じます。

梶芽衣子さんの韓国人と日本人の間に生まれた女性の役が悲哀に満ちていて心に残ります。

「うちは朝鮮人でもあらへん・・・日本人でもあらへん・・・ハーフでもあらへん・・・」

この作品など反対の意味で看板に偽りがあるような感じです。

渡さんが刑事役でその名も黒岩。しかもレイバンのサングラスをかけています。

公開の年に放送された「大都会 闘いの日々」の黒岩刑事はサングラスをかけていなかったはず。

サングラスの黒岩刑事は翌年の「大都会PARTⅡ」(1977年)から登場します。

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