福岡県糸島市 司法書士 ブログ

プロの交渉術

プロは相手を敵視しない

交渉のプロといえば弁護士です。

弁護士の交渉術には特徴があります。

それは、交渉相手に不快感を抱かせないこと。

反対にプライドをくすぐるくらいのことまでやります。

同じように交渉相手に不快感を抱かせない人たちがいます。

それは、やくざやエセ同和といった「反社」と呼ばれる方々。

反社の皆様もその点については実にうまいのです。

敵対的な交渉(利害が対立)において、相手の敵意を煽ることは失敗に繋がる。

これを知悉しているのでしょう。

交渉相手を尊重し、気持ちよく話をする。

それが結果的には所期の目的に近い成果に繋がるのです。

 

部下の成長と人格攻撃

反対に素人はいけません。

自分の無理な主張が通らないことを理解しても、引き際が下手です。

負けたーと思うと、何をするか?

それは、人格攻撃です。

私が損保勤務の時代にこういうことがありました。

トイレから席に戻ってくると女性の一般職が待っていました。

「もう!私、今回は本気で怒ってます!」

何があったか。

過失割合の交渉で、相手方からこう言われたというのです。

「保険屋風情のくせにエラそうにしやがって!

どうせ、おまえは客に股を開いて契約とってるんだろうが!」

俗にいう戸別訪問セールスをやっているという前提事実に立っています。

そして、性的接待と引き換えに保険契約を締結しているというのです。

彼女はデスクで電話交渉をするのが仕事。

出かけることはありません。契約締結なども仕事の中にはありません。

ですが、保険会社の社員を蔑む際に「保険屋」呼ばわりをするのはよくあること。

交渉相手もその表現で彼女の人格を貶めたのです。

そして、女性に対し「性接待」をしているというのは完全な中傷です。

「どうしましょうか?名誉棄損ですよね?」

「いや、残念ながらそうはならないな」

侮辱罪も成立しません。

彼女の名誉感情を傷つけてはいますが、彼の行為には公然性がないのです。

私は彼女に言いました。

「君はよくやった。今回の侮辱の言葉は君の勲章だ」

彼女は隙もない説明で、自らの主張を相手が呑まざるを得ないところまで追い詰めたのです。

「君が完璧な説明をして相手はそれを認めざるを得なかった。それが悔しいということだよ。

だから、人格攻撃くらいしかできなかった。君の勝利であり成長の証だ」

彼女は褒められて頬が緩みました。

「だが、もう一段上のレベルを目指そうじゃないか。追い詰めたら、相手は噛みついてくる。

だから、逃げ道を残してやるような交渉を今後はやってみること。

そうすれば、さらに君の交渉レベルは上がるよ」

私は、彼女に対し、「明日でいいから相手方に電話をかけてみるように」と指示しました。

みていると、彼女は周りの女性一般職と相談していました。

同じ苦労をしながら仕事をしている仲間です。

翌日、彼女は相手方に

「昨日は失礼しました。私の説明が至らず不快な思いをさせたようですみませんでした。

改めて説明いたしましょうか?」

相手はそれを断ったようです。

「でしたら、どうかご理解のうえ、広いお心で解決にご協力をお願いできませんか?」

引っ込みがつかないはずの相手に「負けを認めさせる」ことはしなかったのです。

飽くまでも「寛大な協力」を「お願い」しました。

相手が応じやすい環境を作ったのです。

そのまま解決に至り、相手は前日の暴言を詫びたそうです。

プロの交渉でした。

私が手放しで称賛したことはいうまでもありません。

 

 

尊重と余裕

交渉上手の人は相手方を尊重することを忘れません。

だから、相手方も気持ちよく話をすることができます。

本音もいえるし、共に解決案を考えることもできます。

下手クソな人は、最初から「自分VS相手方」の「バトル」を設定します。

「言い負かしてやろう!」という姿勢ですが、これは自信がないゆえに出てしまう態度。

相手方の話を聞く余裕がないのです。攻められると弱いという自覚もあります。

だから、必死で攻めようとします。

それが悪い結果を生むなどとは考えません(考える余裕がないのです)。

交渉下手な人は、日頃から相手の気持ちを考えずに言葉を軽く使っている。

私の観察ではそういう印象です。

司法書士はどうでしょう?

多くの人が決して交渉のプロではないような気がしなくもありません。

 「白い巨塔」(1978年放映)の東教授(中村伸郎さん)

  東教授は常に「威厳と余裕」を心掛けているという記述が原作にあります。

  威厳までは必要ないかもしれませんが、交渉においては気持ちの余裕は大切です。

技術以前の心構え

交渉の要諦は、相手の本当のニーズを察知すること。

こういう説明がなされることがよくあります。

けれど、それを学ぶ前に相手を尊重するという基本的なことが重要です。

それができない人が、いくら交渉理論を学んでも交渉下手のままでしょう。

債務整理や消費者問題への対応くらいでは、なかなか経験できないかもしれません。

一番いいのは、弁護士かやくざと利害が対立する交渉をすることでしょう。

司法書士になってからの私はそういう機会にあまり恵まれません。

多くの司法書士が交渉を得意とできないのは、機会に恵まれないからかもしれません。

今の私は、やくざと話す機会はまったくありません。

これは、やくざが表立って活動しにくい昨今の社会情勢のせいかもしれません。

一方、弁護士とは交渉する機会がたまにあります。

勝ち筋のケースでも、弁護士としての顔を潰すことだけはしません。

相手を「やっつける」のではなく、「なんとなくwin win」みたいな終わり方を狙っています。

弁護士でも「勝ちたい」タイプがたまにいます。ああ、下手だな、と思います。

そう思いながら、実利をしっかり得るような処理をする。

私はそういう姿勢です。依頼者が満足すれば、それでいいので。

 

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