「ファーストオファー」
これは交渉における「最初の提示」を意味します。
わかりやすく交通事故の損害賠償の交渉を例にすると・・・
X損害保険会社(加害者側)の担当者Aと被害者Bが交渉する際に、
どちらが先に金額を具体的に示すか?の問題です。
通常はX社のAが提示するはずです。
これを低めに提示するのが普通だとされています。
なぜなら提示額は「叩き台」として、出発点の役割を果たします。
そうすると、AがBに200万円を提示すれば、解決額は200万円以上になるのです。
だから、最初からX社として支払える最高額である280万円を提示することはない。
こういう考えの下、低めの提示をしたいと考えるわけです。
一方で、Bの利益はできるだけ多くの賠償金を得ることです。
Aの提示に対して「いや、少なくとも250万円は欲しいですよ」と控えめに答えたとします。
これがAにとってはありがたいことなのです。
交渉は200~250万円の間で進むことになります。
先に提示したAが有利になりました。
どういう意味か?
つまり、200万円周辺に解決のゾーンを繋ぎとめる効果が生まれたのです。
Bとしては「できるだけ多くの賠償金を得る」つもりでした。
本音は500万円を狙っていたかもしれません。
交渉においては、相手に希望額を先にいわせる。
その結果として、その希望額を最高ラインに設定し、切下げを計るのが得策である。
こういう考え方がありますが、実は決してそうではありません。
交渉の性質上、どうしても先に提示しなければならないとしても、
上記のような繋ぎとめ(アンカーリング)が生じるので、実は先手必勝の面もあるのです。
500万円を希望しているBに200万円を提示しても意味がなさそうに思われるかもしれません。
でも、このアンカーリング効果は心理学の世界では有力な考え方です。
Bは200万円という数字に近いところで引き上げを図ろうとするものらしいのです。
私は実体験からもこの考え方を支持しています。
仮に、「200万円」という提示にBが立腹し、「冗談じゃねーぞ!」と怒ったとします。
これはこれで意味があるのです。
Aは「本件は、とてもではないが200万円から少々の上積では解決できそうにない」と悟ります。
X社は次の手段を講じることができるというわけです。
なお、ファーストオファーが正しく、相手に希望額を言わせることが間違いという話ではありません。
経験を重ねると、それぞれの長所を一回の交渉の中で上手に使い分けたりできるようになります。
その局面に応じた話法の選択もできるようになるのです。
★ 市原悦子さんが犯罪者との交渉人役を演じた作品があったそうです。