法律書の装丁の変遷について書いたことがありました。
そのときに文学書等の装丁についても気になっていたのを思い出したのです。
函入りのものはほとんどなくなりました。
妙に軽い雰囲気のデザインやアニメっぽい絵が目立つようになっています。
出版社から
「読者層が子供っぽくなっているので」
と言われているような気がしなくもありません。
その中で、非常に美しい装丁の本もみつかるのです。
「草のつるぎ」(芥川賞受賞)で有名な野呂邦暢のエッセイ集。
菖蒲のデザインは名作「諫早菖蒲日記」にちなむのでしょう。
吉行淳之介の「目玉」は平成期になってからの函入り本です。
こういう文章を書いてみたい。そう思わせる作品が並ぶ珠玉の作品集です。
イタリアの作家マーリオ・リゴーニ・ステルンの作品集「雷鳥の森」。
カバーをはずすと左のような本が現れます。
ナチスドイツの「死の天使」ヨーゼフ・メンゲレの南米での逃避行を描いた
「ヨーゼフ・メンゲレの逃亡」は洒落たデザインの装丁です。
新旧のデザインを対比するのも面白いので、ハヤカワ・ポケットミステリを。
旧デザインは、一貫して抽象画で、同じ画家の作品でした。
その画家が亡くなったこともデザイン変更の一因らしいという話。
ポケミスらしさは右の旧デザインに感じる-という私は「守旧派」かもしれません。
最近のポケミスは訳がこなれた文章になり読みやすくなりました。
新しいデザインの装丁はそれを感じさせるものがあります。
こちらは翻訳ミステリで早川書房と二大山脈をなす東京創元社の創元推理文庫。
上が旧デザインのもので、ウィリアム・アイリッシュの「夜は千の目を持つ」。
下は、ノエル・カレフの「死刑台のエレベーター」で、以前のデザインが変更された模様。
一色ながら、美しさと格調高さを感じさせる田宮虎彦の「さまざまな愛のかたち」。
今の若い人は田宮虎彦を知らないようですが、もったいないな、と思います。
こちらはカバーの絵が美しい「過去をもつ人」。
詩人荒川洋治のエッセイ集で、その文章の美しさも折り紙付きです。