Negotiation Power は交渉力のこと。
英語にしてみたのは、司法書士にはやや異次元の話だからです。
なぜ異次元なのか?
実は、登記を主要業務にしていると「交渉」に縁遠くなるからです。
依頼を受け、そのとおりに登記の申請をする。
誰かと交渉する機会はありません。
交渉は、利益対立の場面で必要になります。
司法書士が一方の代理人になって交渉する。
利益が対立する場面ですから敵対的な交渉になることも多いでしょう。
これを最初から「やりません」という司法書士はかなり多いのです。
おそらく多数派といえるでしょう。
そうすると、交渉力を身につける機会は訪れません。
依頼者の注文に応じて正確な書類を作る日々を送ることになります。
これはこれで司法書士の生き方のひとつです。
ただ、法律を扱う以上は紛争を回避していては意味がないような気がします。
紛争なくして法律が生まれない以上、法律を生業とするのなら紛争を扱うべきです。
私は、うつ病からの社会復帰のために司法書士を仕事として選びました。
でも、今のように認定司法書士になり簡裁事件を扱うことができなければ、どうだったか?
つまり、司法書士は登記申請がほぼすべてという仕事だったらどうだったか?
おそらく、まったく魅力を感じなかったと思います。
「法律家」を名乗りたいのであれば、紛争を扱ってこそでしょう。
誰かと交渉する力(気)がないのに「法律家」と名乗ったら、笑われるような気がします。
交渉に関しては「交渉学」というカテゴリが生まれ、専門書も出版されています。
けれども、機会を重ねないと身につきません。
私は、会社員時代には交渉を業務としていました。
そのおかげで交渉に関しては自信をもって
「ワシはプロじゃ!」
といえるようになりました。
そのせいなのか、トラブル関係の相談はよく受けています。
そして、自分にはその分野が合っているのだ、と実感することが多いのです。
昔は楽しかったなあ、仕事は嫌いだったけど。
ヤクザやエセ同和、エセ右翼のおじさんたちとの愛と抗争の日々。
交際中から結婚した当初、妻は
「この人はおかしいんじゃないか?」
と思ったそうです。
私が嬉々として
「今日は両手の小指を飛ばしたおじさんと会ったよ」
などと話すので、「絶対にこの人の感覚はおかしい」と思ったそうです。
思い起こせば、指のないおじさんや墨を背負ったおじさんは「先生」でした。
おかげさまで、修羅場を学ぶことができ、少々のことでは動揺しなくなったのです。
さらに、交渉でプレッシャーをかける術も教えていただきました。
多くの「先生」方は鬼籍に入られたかもしれません。
「危機一髪」の状況に陥った人はいましたが、殺された人はいないようです。
この年齢になって、ちょっと感謝しています。
「仰げば尊し我が師の恩」という感じで。
★ 交渉学に関する書物のひとつ