蝶や蛾の標本については、よく「完品」(かんぴん)という言葉を使います。
まったく傷みがない綺麗な形の標本を指す表現です。
およそコレクションという意味での採集をしない私ですが、完品標本を多数持っています。
なぜかというと、飼育をするからです。
蝶を卵から育てて成虫にする。
その過程での生態を観察します。
人工飼育ですから、おそらく放蝶しても生きていけない個体です。
標本にするしかありません。
ほかにも屋外で「証拠品」として採集した個体が完品ということもあります。
証拠品として残すなら美しい方がいい。
だから完品を狙って採集することもありました。
とはいえ、それは見た目が綺麗というだけで、証拠価値は傷んでいても変わりません。
新種記載の基本になった標本(タイプ標本)はボロボロの場合が多いのです。
蛾などの場合は交尾器の解剖までやっていたりですから。
さて、蝶の生態や分布を調べているとよく訊ねられます。
「新種を発見したことはありますか?」
当然ながらありません。
新種発見など国内の蝶の世界ではほぼあり得ません。
生態から斑紋の違い、さらに交尾器を調べた結果、
ひとつの種とされていたものが分かれた例はあります。
遺伝子情報を調べた結果、分類がかわり種が分割された例もあります。
でも、純粋な新発見は1973年のゴイシツバメシジミが最後です。
写真はツマグロヒョウモン(メス)とミヤマカラスアゲハの完品です。
美しいので撮影しました。