福岡県糸島市 司法書士 ブログ

信託は司法書士業務か?PART1

信託人気

私の同期合格者の間では信託分野を業務の柱に据えたいという声がかなりありました。

新たなフロンティアとしての魅力を感じた人が多いのかもしれません。

新人研修での講義に魅力を感じた人もいるのではないかと思います。

かく申す私は試験合格前からこの分野に興味を抱いていました。

当然のように業務の中心にするつもりでした。

昔は信託法の体系書といえば四宮和夫教授が有斐閣の法律学全集の一冊として著したものくらいでした。

今は,新井教授の書かれたものや会社法の教科書で有名な神田教授の著書など読みやすいものが増えています。

というわけで,私も勉強を始めたのですが・・・

犯収法での扱い

ところで,司法書士業務をやっていくうえで必ず目を通しておくべき法律があります。

それは「犯罪による収益の移転防止に関する法律」(犯収法)です。

これを何度か読んでいて気づいたのです。

信託契約を締結を媒介することやその契約書を作成することは司法書士業務ではないかもしれない,と。

少々複雑です。

特定事業者は,顧客等との間で本人特定事項の確認を行わなければなりません。

司法書士はこの特定事業者です(同法2条2項45号)。弁護士もそうです(同44号)。

上記の「確認」については同法4条1項柱書に書いてあるのですが,ここがクセモノなのです。

かっこ書きの中のかっこ書きで「第12条において『弁護士等』という。」と書いてあります。

では12条はどうなっているか?

弁護士は日弁連の会規である「依頼者の本人特定事項の確認及び記録保存等に関する規程」に基づき,

本人確認とその記録保存をする旨が定められています。さて,上記の規程の内容はどうなっているでしょう?

その第2条2項8号に「信託契約の締結」が明記されています。

この点が司法書士にかんしてはどうなっているでしょう?

まず,犯収法に弁護士等にかんする12条のような規定はありません。

次に,犯収法施行令です。その第8条に司法書士等の特定業務が定められています。

注目すべきは第3項です。信託にかんする内容があります。

9号 信託法第2条第12項に規定する限定責任信託

つまり,以上をみるかぎり司法書士には信託契約締結全般にかんする業務が認められていないのではないか?

という疑問が生ずるのです。

そもそも論として司法書士業務に信託分野にかんする定めがあっただろうか?

私はこう考えて司法書士法を繙きました。

司法書士法と司法書士法施行規則に根拠はあるか?

司法書士の業務範囲は司法書士法3条に定められています。

この中に信託という文言は登場しません。

不動産の信託登記をする際に添付情報となる信託契約を証する情報が法務局に提出する書類として

3条1項2号にひっかかりそうですが,信託財産に不動産が必ず含まれるわけでもありません。

また,登記は既に成立した契約の結果を公示する手続きですが,信託契約は新たな契約を成立させるものです。

根本的に性質が異なるのです。したがって,上記の司法書士法3条を根拠にすることはできません。

さらに探してみて,これはどうだろう?と思いついたのが司法書士法施行規則31条です。

この規定は司法書士法人にかんするものですから司法書士一般に該当するかどうかは議論がありそうです。

司法書士法人もまた司法書士の集合体であるし,一人法人も認められるので該当する前提で進めます。

「他人の財産の管理若しくは処分を行う業務又はこれらの業務を行う者を代理し,若しくは補助する業務」

という同条1号の規定に信託を含めることはできないか?という発想です。

この条文では上記業務を行う前提として「管財人,管理人その他これらに類する地位に就」くことが求められています。

信託の設定業務を委任された立場を

「管財人,管理人その他これらに類する地位」

とみるのはさすがに無理ではないでしょうか。

少なくとも司法書士が委託者および受託者の財産を管理することにはなりませんので。

弁護士法72条との関係

弁護士は法律業務にオールマイティの資格ですが,司法書士にも弁護士同様の業務が認められる分野があります。

それらは法定されているのです。以下のような形です。

弁護士法72条は,弁護士又は弁護士法人でない者が報酬を得る目的でやってはならないことを列挙し,

「ただし,この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は,この限りではない」としています。

弁護士法または他の法律に別段の定めがないかぎりは信託契約の組成等をやってはいけないことになります。

この点にかんしては上にみるように司法書士法には定めがありませんでした。

では司法書士法施行規則31条はどうか,というと上に述べたとおり怪しいかぎりです。

それ以前に施行規則が「他の法律」に該当するかどうかという問題もあります。

どうやら根拠がないような・・・

以上からは,

     司法書士の信託業務は根拠規定が定かではなく,

          かつ弁護士法に定める非弁行為の除外規定にも該当しない

という結論になってしまいました。

こういう結論にならなければいいと思っていたのに・・・(des larmes)

余計なことをするのではなかったかもしれない,知らないふりをしておけばよかった,とちょっと後悔しています。

~以下はPART2に続きます~

 

 

 

ブログ一覧へ戻る

お電話

メール

ページの先頭へ
Loading...