福岡県糸島市 司法書士 ブログ

「受け」の難しさ

能動<受動

今日のお題は「受け」です。「ウケ」とか「有卦」ではありません。

「受け」るということ、つまり受動の話です。

俳優の演技では主役として自ら動くよりも、それを「受ける」演技が難しいそうです。

相手の演技を「受け」てどうするか?ここに役者の技量が顕れるらしいのです。

たしかに主役は存在感があれば務まるようにもみえます。

一方で、主役を立てる脇役は主役の演技をどう「受け」て、いかなる演技をするかが問われます。

主役は自らの解釈・理解に従って演技を進めます。

脇役は、主役の考えを理解し、自分ならどう反応するかを考えなければなりません。

つまり、相手の考えを受けて、その後にいかに動くがが求められるのです。

自分の好きなようには動けません。それだけに難しさがあるというのです。

司法書士業務における「受け」

では、我々司法書士業務における「受け」はどうでしょう?

司法書士の仕事は依頼を「受け」ることから始まるように、基本的に「受け」です。

相談を「受け」る仕事です。

受けた相談内容の整理や理解を相談者に示す方法として以下のものがあります。

① Paraphrasing(パラフレイジング)

「言い換え」です。相手の言葉を「言い換え」ることにより

「きちんと受け止めました」

というメッセージを相談者に送ることができます。

②  Summarizing(サマライジング)

これは「要約」です。

相談者はえてして事実や感想、想像や希望を整理しない状態で話します。

これは相談者がそれだけ困惑し悩んでいるからゆえの現象です。

この状態をもって相談者に対して否定的感情を抱くべきではありません。

悩んで相談を持ち掛けてきた相談者の話を上手に要約して整理する。

これだけで理解を示すことができます。

③ Reframing(リフレイミング)

相談者の話す内容について、視点を変えて見直す方法です。

これもまた相談内容の理解を示す技法です。

同時に相談者に異なる視点を示すことにも繋がります。

たとえば、Aが

「妻は普段から金遣いが荒くやりたい放題で、私はもう愛想が尽きました。疲れたんです!」

と言ったとします。

これに対して

「あなたは、奥様に振り回されて困っており、奥様に生活態度を改めて欲しいのですね」

と返します。

Aのストレスに理解を示しつつ、改善の道を示唆できるのです。

これらは相談を受ける仕事に携わる人に求められる必要不可欠の技術です。

相談・調停&仲裁・交渉

上記の手法は、相談ばかりでなく調停や仲裁といった紛争解決にも役立ちます。

そして、当然ながらハードな交渉にも役立つのです。

つまり、上記のような技法は「人を相手に話を聞く」仕事においては共通して求められるのです。

では、①相談、②調停や仲裁、そして③交渉の難易度はどうでしょう?

これは考えるまでもなく①<②<③です。理由は以下のとおりです。

相談は、上記のAが困り果てて持ちかけてきます。

Aは「(司法書士に)聞いてほしい」のです。

司法書士としては「知らないことを尋ねないでくれよ」くらいの緊張感で済みます。

しかも、相談を受けるのは自分の事務所が多い。ホームゲームです。

調停や仲裁に関しても相談に似た面があります。

ただ、同席型の調停では当事者同士の話し合いがベースですから、ちょっと違う面があります。

飽くまでも話の引き出し役であり、受け止めて、当事者間の話がスムーズになるようにします。

そうすると、一方に肩入れしていると誤解されないように注意するほか、

ヒートアップしかねない話し合いを穏やかな雰囲気に保つ工夫が必要になります。

でも、上記の手法を使う点では相談を受ける場合と同じです。

これもまた「なんとかしてもらおう」という当事者からの「受け」です。

敵対的な関係ではありません。

最後に交渉ですが、これが一番面倒です。

立場としては、司法書士は一方の代理人であり、交渉相手とは利害が尖鋭に対立します。

唯一「敵」として相手と話し合うのが交渉。緊張感は相談等の比ではありません。

上手に相手の話を「受け」、それなりの満足感を相手に感じさせつつ、

自分の側の主張をのませていく必要があります。

上記の手法が最も生きるように思います。

技術の習得

技術を身につける。これが最も難しいのです。

なぜか?

場数を踏むほかないのです。

司法書士になれば相談を受けることは日々のルーティンワークです。

この中でいかに身につけるか。

日常的に調停や仲裁に携わる機会は少ないでしょう。

ハードな交渉もそうです。経験する機会は限定的でしょう。

せいぜいが紳士的な貸金業者を相手にした任意整理くらい。

これも最終解決内容はある程度決まっているため、落としどころの調整程度です。

電話口でギャーギャーいわれたり、直接面談で机を叩かれたりということはありません。

弁護士なら当然のようにきつい交渉を日々の仕事で経験できるのですが。

司法書士でハードな交渉経験があるのは、私のような前歴がある人くらいかもしれません。

その私とて、机を叩かれた、怒鳴られた、掴みかかろうとされた、刀を抜かれたくらいです。

直接に身体に暴力を受けた経験はありません(ちなみに、私の同期入社の人は刺されました)

司法書士になった今はそういう交渉に携わる機会がなくなりました。

そうすると、日常の相談業務の中で地道に習得するほかないのです。

ただ、身につけておけば、必ず役に立ちます。

裁判所の調停委員になる場合や、もしかすると切った張ったの交渉もあるかもしれません。

学びの契機

日頃の相談業務で技術を磨く。

でも、そもそもそういう技術を意識していない人が多いかもしれません。

ところで、私が直接担当した示談交渉はせいぜいが1200件程度だと思います。

指導的役割になってからは、直接交渉に携わるケースは減りました。

しかし、携わらなければならないケースは、まさに満塁のピンチに登板するような状況ばかり。

クローザーとして超ハードな交渉のみをやるようになった感じです。

その経験の積み重ねから上記の各手法を独自に編み出していました。

後日になって、理論化されている内容をみて、

「なんだ、普段やってることじゃないか」

と思ったものでした。

こういう(したくもないような)経験をする機会も普通はありません。

つまり、各技法を意識するチャンスに恵まれない人が大多数なのです。

ではどうするか?

チャンスがあれば研修を受けるべきでしょう。

残念ながら、その種の研修は受講生が集まらない傾向が強いように感じています。

日常の相談業務を上手にこなすためにも、せめて上記の三つの技法は身につけるべきなのですが。

おそらく、司法書士には紛争を嫌う人が多いことに起因しているのでしょう。

でも、繰り返しになりますが、上記の技法は日常業務に使うものなのです。

司法書士は脇役に徹する

最後に「受け」の話に戻ります。

相談業務においても司法書士は主役ではありません。

飽くまでも、第一に聞き役でなければなりません。

相談者は、「聞いてもらう」ことでかなり解決に近づきます。

もしかしたら、心情を吐き出すだけで悩みの多くは解決に向かうかもしれません。

そうすると、司法書士は脇役として「受け」ることに徹する必要があるのです。

必要に応じて知識や経験から可能なアドバイスを送る。

悩みを解消できたかどうかは相談者の気持ち次第。

司法書士が「解決してあげる」という意識は捨てた方がいいと思います。

相談者自身の解決をアシストするくらいの感覚で相談に臨むくらいが丁度いいでしょう。

だから「受け」ることができるかどうかは、司法書士の仕事において重要なのです。

 左 松方弘樹さん  右 若山富三郎さん(若山先生)

  二人とも主役で存在感を放つ一方、脇にまわっても抜群のうまさでした。

  この二人に共通するのは、殺陣の迫力です。

 

 

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