夢?
司法書士試験に合格して少し経った頃のことです。
「学生時代からの夢がかなったんですね」
と,一度くらいしか喋ったことがない人にいわれました。
思いがけない話でした。
学生時代に司法書士になろうと思ったことは一度もありません。
19歳の夏に自分の将来への希望を諦めることになり,その後の人生は「余禄」だと思っていました。
でもその頃に司法書士になることを考えたことはないのです。
私は
「いいえ,司法書士になることが夢だったことは一度もありません」
と答えましたが,意外そうな顔をされました。
一度くらいしか喋っていないのに,相手の夢を知っているというのはかなり凄いと思いますが,
その凄さに本人は気づかないようでした。
逆転人生?
「保険会社の社員からの転身,逆転人生ですね」
これもさしてつきあいのない人にいわれた言葉です。
自分でそう思ったことは一度もありません。
収入面だけをみれば,損保会社に勤務している方がよいと思います。
社会保険やその他の福利厚生を考えても司法書士が上回ることはありません。
たしかに「余禄」「ついで」の人生としてやっていたサラリーマンではありますが,
司法書士の世界がバラ色にみえるほど甘ちゃんでもないのです。
テレビなどでは,一念発起し必死に勉強してサラリーマンとしての「惨めな人生」(笑)から
華麗な転身を遂げた-みたいに描くケースがそこそこありますが,絵空事すぎます。
思い込み
人は勝手に相手のイメージを決めてかかり,思い込んでしまう傾向があるようです。
損保会社に勤務していた際に何度か受けた質問は以下のようなものでした。
「毎日何軒くらい訪問するのですか?」
「営業ノルマは厳しいですか?」
「歩合はどのくらいですか?」
毎日一軒も訪問しませんし,営業ノルマもありません。
会社の制度としての歩合給も一切ありません。そもそも営業部門にいたことすらありません。
若い頃には示談で外出もできましたが,その後はひたすらデスクに向かい,大量の書類を読み,
それらを黙々と決裁する時間が大半です。
しかし,世間では,保険会社の人が日々家庭を一軒一軒訪問し,セールスをしているという印象が強いのでしょう。
その人たちの家に保険会社各社の人が頻繁に来るようなことはないはずなのに。
これもまたテレビドラマの影響なのでしょう。
以前にも,高嶋政伸さん演ずる生命保険会社勤務のサラリーマンが,下町の八百屋さんに
保険のパンフレットを渡そうとするドラマがありました。後日,海外勤務の辞令が出るので,
この役は総合職なのだろうとわかります。総合職が訪問セールスをすることはありません。
映像のインパクト
同じようなことは裁判についてもいえるでしょう。
弁護士が挙手して「異議あり!」と立ち上がったり,相手方の証人を反対尋問でコテンパンにやっつける。
ドラマの中だけのお話です。初めて傍聴する人は,その素っ気なさに驚くことがしばしばでした。
私は会社員時代に会社(原告)の代理人として簡易裁判所で原告側証人尋問と被告本人尋問をやる際に,
他部署の女性社員数名が見学に来たので,せっかくだから少し楽しんでもらおうと思い,
若干大袈裟に身振り手振りを入れながら反対尋問をやってドラマ風にみせたことはあります。
今から考えれば,恥ずかしいかぎりです。裁判官も被告代理人の弁護士も呆れたことでしょう。
意図してドラマ風にやらないかぎりは淡々と進み,味気ないのが裁判です。
実際には決してドラマのような「ドラマティック」なことは起きません。
つくづくテレビの影響は大きいな,と思います。
星飛雄馬が「巨人の星」のオープニングでローラーを引く場面をみて
そのローラーを「コンダラ」というものだと思い込んでいた人がいる-有名な話です。
「重いコンダ~ラ 試練の道を~♪」