今日は少々堅い言葉を扱います。
民法を学び始めてすぐに知る言葉が「表見法理」です。
簡単にいえば「外観を信じた第三者を保護する」ための考え方です。
たとえば、Bが「A代理人B]という委任状を持っていたとします。
Cは、BがAの正当な代理人であると信じます。
そして、Cは、Aと取引をする意思でBとの間に契約を締結。
代金を払うのも「A代理人B」に払います。
ところが、Bへの委任はその一週間前にAにより解除されていた。
こういうケースです。
C 「BはAさんの委任状を持っていたよ。代理人だと思うのは当然じゃないか」
A 「俺はBに任せるのを一週間前にやめたんだ。Bにもハッキリ伝えた」
この場合に悪いのはBですが、さて、CはBに払った代金を返すようにAに請求できるか?
AはBに渡した委任状を回収する努力をせずに放置していました。
こういうケースではCがAに勝つ。
これが表見法理の考え方です。
この表見法理について、非常に神経を使っているのは弁護士の世界かもしれません。
よくあるのは、開業する資金や安定経営の基盤がない新人弁護士Yのケースです。
先輩X弁護士の事務所の一角を借りて開業(軒弁といわれる形態)。
こういう世間からみると特殊な開業の仕方があります。
尤も、弁護士の世界では特殊ではなく、一般的とさえいえる開業方法です。
看板は「X法律事務所」。
多くの人はYをX事務所の一員だと思うはずです。
そこで、小さく「Y法律事務所」の看板をつけます。
電話番号やファクシミリ番号は当然別で、メールアドレスのドメインにも気を遣います。
今はホームページを持つ事務所が多くなっています。
X事務所の「所属弁護士」としてはYは絶対に載せません。
事務員は便宜上Yの電話を受けてくれます。
ただし、XがYに事務員の給与を払わせることはありません。
多くの場合は、事務所の一角の賃料に含めて徴収します。
コピー機の使用も同様です。
もし、新人で慣れていないY弁護士が大失敗をやったとしたら・・・
X弁護士はその責任を問われないように、Yとは全く別事務所である形を作るのです。
客観的に見て、「Y法律事務所」の看板が掲げられ、電話番号は別。
このあたりがポイントでしょう。
仮に、看板なし、電話は共用だとしたら・・・Xは確実にYの使用者とみなされるでしょう。
X事務所のアソシエイトとみなされるYの「やっちまった」責任をXも負うのです。
こういうことがないように弁護士は細かく配慮しています。
ある弁護士にいわせると、こういうリスクヘッジは法律家の基本中の基本だそうです。
他県では「X・Y法律事務所」にZ弁護士が所属していて、私とは懇意でした。
Z弁護士は優秀な方で、司法試験と国家公務員総合職試験は卒業前に一発合格。
某官庁から激しいリクルートを受けた人です。
この人は勤務弁護士の形態でX・Y事務所に勤務していました。
いわゆるアソシエイトです。
Z弁護士が「やっちまった」場合は、XとYも責任を負います。
ただ、実質は3人の共同事務所でした。
つまり、先輩であるXとYが一方的にZの責任だけを負うようにしてくれていたのです。
Z弁護士は経験を重ねました。
X弁護士は高齢になって第一線に立たなくなりました。
その後、この事務所は「X・Y・Z法律事務所」になりました。
この事務所の場合、XとY(いずれもその県では重鎮クラス)の温かい配慮があったわけです。
そして、XとYには覚悟もあったのでしょう。
優秀なZへの信頼も。
一人前と認められ、パートナー経営者として外部に明らかにするまでは守ってくれたのです。
Z弁護士もそのことをわかっていました。
私の事務所にはほかに司法書士はいません。私が一人でやっている事務所です。
ほかの司法書士どころか事務担当者もいません。これも私一人で賄っています。
理由は、①儲かっていない(笑)、②他人様の生活を支えるほどに業容を拡大する気がない、
そして、③リスクを背負うのがいやという三点です。
ただ、独立前提で給与なしの完全出来高制であれば、司法書士を受け容れてもいいかな、
と最近は考えるようになりました。
開業の決心がつかずに時間だけが経過してしまう人がいたりするからです。
その人たちのスタートの場所として事務所を利用してもらうことを考えています。
ただし、これはリスクが結構大きいのです。
私の収入アップには繋がらず(完全出来高制)、リスクだけを背負う形態ですので。
その覚悟をしても開業を後押しすべき人には門戸を開こうかな、と思っている次第です。
★ 「実録外伝大阪電撃作戦」のオープニングから
双竜会は巨大組織である神戸川田組の組長がクラブで寛いでいる場所に乱入。
狼藉を働きます。川田組は「親分が恥をかかされた」として双竜会殲滅に乗り出します。
結果は2週間程度で決着がつくので「電撃作戦」。
手打ちのために双竜会側は幹部全員が指を・・・という内容です。
狼藉を働いたのは双竜会の若い衆。
双竜会はメンバーの証として、胸に髑髏の刺青を入れています。
川田組の殲滅部隊は次々とチンピラを捕まえ、刺青の有無を確認します。
幹部は「ワシはそんなん知らん。うちの若い衆やないで!」と逃げることができません。
若い衆の責任を最後は親分連中が全員で背負ったわけです。
実録とあるとおり、明友会と山口組の間に生じた「トラブル」を描いています。
松方弘樹・渡瀬恒彦のコンビが主演する非常に熱い映画です。
一方で、敗れ去っていく側から描かれた面白い視点の映画でもあります。