福岡県糸島市 司法書士 ブログ

損保対組織暴力

やくざ体験

昭和62年, 私は損保会社に入り, 交通事故に関する損害調査の

部門に配属されました。 最初の任地は福岡でした。

5月になる前から事件を担当するようになり, 先輩の事件を引き

継いで示談交渉に出かけたりすることも増えました。

その中で, 秋にやくざと初対決を迎えます。

 

実は, 私にとってやくざは日常の中にいる存在で, 全然怖くあり

ませんでした。 小学校時代には同級生の家で発砲事件が起きま

したし, 高校までの通学経路に組事務所があって, そこでも発砲

事件が起きていました。 実家の近所には組長さんが住んでいて,

犬の散歩であいさつを交わしたりしていました。 そういえば, 中学

生時代には, 他校生のやくざの息子ともめ, 安全カミソリで脅され

ました。 父親のやくざはカタギになったものの, 昔の抗争の話がつい

ていなかったせいか, 70代になって射殺されたのは気の毒でした。

私はこれが普通だと思っていましたが, その後に郷里が普通の環境

ではなかったことを知ります(笑)。

 

子供のころから日常的にやくざをみていても, 示談交渉は金銭が

からみ利害が対立する話し合いです。さて,どうなるか?

そうは思ったものの,  やはり怖くはありませんでした。

筋が通らんでしょうが!

待ち合わせ場所は, なんと岩田屋デパートの地下です。

デパ地下でやくざと会う。今から考えると笑えますね。

ところが, 肝心のやくざが来ません。待ち合わせの5分前から5分後

まで待っても来ないので帰りました。

すると会社に苦情の電話が入りました。「待ち合わせ場所に高橋が

来ない!」と。私が電話に出て「こちらは待ち合わせ時間が過ぎても

5分待ったが,おたくが来なかった。おたくは文句を言っているが,

筋が通らんでしょうが」というと,やくざはあっさり引きました。

「悪かった。俺が遅れたのは認めるし謝る。もう一回来てくれんか?」

若い私です。「おまえが来いや!」と言いそうになりましたが,仕事です。

保険契約者のためにはスムーズな解決こそ一番。再びデパ地下に

行き, やくざ(指は全部揃っている人でした)とオレンジジュースを飲み

ながら交渉し,円満解決に至りました。

やくざ稼業の皆様との愛と抗争の日々

入社2年目, 私は飯塚に転勤しました。

当時は下火にはなっていたものの, 筑豊地区はNHK特集でとり上げ
られたように賠償交渉や傷害保険での不正請求で全国的に有名に

なっていました。 23歳のあんちゃんをそこに行かせた会社も会社です。

「業界最年少記録だね」「おたくの会社はむごい人事をするねぇ」と

他社の方に言われましたが, 私は別段何とも思いませんでした。

そして, 最初に担当した被害者さんは左手の小指がない人でした。

そこから3人連続で左手の小指がない人ばかり。日々が「極道渡世の

素敵な面々」との出会いになっていきます。

ある指定暴力団御用達の病院に被害者を訪ねた際も4人部屋の全員が

刺青姿をさらしていて, しかもそのうち2人には美女(2時間サスペンス

の最初の10分で死体になるタイプの美女)が寄り添っています。マジメな

損保マンは一人ぽっち。理不尽だな・・・などと思いつつ, 若い衆である

被害者に賠償の説明をして, その後の世間話ではお互いにウマが合って,

後日の示談の場では「あんたのいう通りでいいけん」という結果になりました。

そういえば, 同じ組の人で, その後に建設会社銃撃の際に運転手役をやった

ために, 現在服役している人とも示談をしました。 元気にしているのか気に

なります。出所後は組を抜け, 一般社会で戦力になって欲しいものです。

そして, 社会も彼らの更生を応援する雰囲気であって欲しいと思っています。

目力の強さは本物

ちょっとだけ迫力を感じたのは, テキヤの親分さんを入院先に訪ねた際です。

ジロリと睨むその目の力にはさすがに本職の凄みを感じました。

そこの若頭(実子分)も被害者で, その人も目力は強かったのですが, 普段は

ほがらかで, 自慢の日本刀コレクションをみせてくれたり, 最後には人の刺し

方まで教えてもらいました。

こういう「上の人」になると, 私を威圧したり, 怖がらせるようなことは一切言い

ません。その辺の普通の人よりもずっと紳士です。しかし,上記のように目力が

違います。何か間違えると暴力が発動されるのだということを実感しました。

あの目つきは素人には無理でしょう。

やくざが出てくると安心

こうして仕事上でのやくざ体験を重ねた私が得た結論, それは, 「交渉にやくざが

出てくると安心できる」ということです。まず第一に, 彼らは素人である私たちに

暴力をふるうことはありません。次に, 彼らは話をつけるプロで, 凄んで警察を

呼ばれるよりも, 上手に妥協点をみつけてカネを儲けたいのです。やくざの顔を

潰さないように, 立ててあげるようにすれば, やくざもこちらの顔が立つよう配慮

してくれます。 お互いの雰囲気を読んで,「話をつけるのは可能だ」と判断すれば,

そこからはアドリブの演技合戦になります。こういえば,こう受けてくるだろう,その

ときはこう返そうという感じで, お互いが考える着地点を探り合いながら,  そこに

向けての軟着陸を脚本なしに演じる感じです。

俺の顔を潰すな

別の任地で「女性社員の口の利き方がなっていない!上の者が来い!」という

クレームが入り,待ち合わせ場所のロイヤルホストに出向いたところ, 風体の

悪い男がやってきました。店内で騒がれたら恰好悪いなぁ, と思っていると,

その男は座るなり「俺, 〇政会のもんやきね」と言い放ったのです。

「あ~よかった!話がついた」と私は相手がやくざであると知り安堵したものです。

「あいつはなっとらん。クビにせぃ!」

「そちらの世界でも簡単に若い衆を破門できんでしょうが。それと同じですよ」

こんな会話で手打ちができ, 最後に勘定を払うときに「俺の顔を潰すな」というので,

一杯200円のコーヒーは遠慮なくご馳走になりました。

なお, 今回のタイトルは東映映画の名作「県警対組織暴力」にあやかりました。

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