ある破産事件のお話です。
私は債務者Bさんの相談を受けて破産手続開始を求める申立てをしました。
その時点でBさんには債権者が2社と1名。
1社は消費者金融であり、もう1社は保証会社。
個人の債権者はBと年齢が近いAさん。
私が受任した時点でAさんはBさんを相手方として貸金返還を求める調停を申し立てていました。
私はBさんの代理人として「調停には応じられない」旨の書面を簡裁に提出しました。
なぜならBさんには資力がなく、高齢で就労不能。破産するほかない状況だったからです。
調停は不成立に終わりました。
その間にBさんの破産開始手続きは進みました。
もうすぐ破産手続開始と同時に手続を廃止する決定が出る。
そういうときにAさんが突然訪ねてきたのです。
悔しい。悲しい。そういう気持ちを聞いてほしかったということでした。
眠れない日々を送っていたそうです。
破産は法が認めた債務者救済制度という面を持っています。
それにより多重債務に陥った債務者は救済され、人生を再スタートできるのです。
しかし、その再スタートは債権者の犠牲の上に成り立っている。
これを改めて感じました。
Aさんとはひとしきりお話しましたが、
「話を聞いてもらって気持ちの整理がついた」とのことでした。
帰りは私が駅までお送りしました。
その後にも丁寧なお礼の電話がありました。
私はBさんの代理人ゆえBさんの利益のために行動しなければなりません。
それに徹しました。
が、Aさんの立場に立てば法制度の理不尽さを訴える気持ちも理解できます。
法律に携わると、依頼人によって立場を変えざるを得ません。
これをつらく感じる人が少なくないかもしれません。
債務整理では貸金業者との交渉がハードだと思われているようです。
実は、こちらはそうでもありません。
貸金業者は紳士的であり、交渉は淡々と前に進んでいくだけです。
一方で、破産・免責という事態に陥ると、個人債権者を泣かせることがあります。
このあたりを好まない司法書士が結構多いのかもしれません。
法律関係の仕事である以上、利害対立の狭間に身を置き、感謝もされれば憎まれもする。
これが普通だとは思うのですが、司法書士は「平和産業」的な面が強いのもまた事実です。
★ 心の整理といえばドラマ「白い巨塔」の東佐枝子です。
里見脩二への思いを断ち切り、父である東教授の弟子でネパールにいる医師との結婚を選択。
このあたりの話は原作には一切出てきません。
脚本家がドラマとしての盛り上げを狙って書き換えたのですが、大成功でした。
島田陽子さん演ずる佐枝子と接する中で中村伸郎さん演ずる謹厳な父東貞蔵の「成長」まで描かれました。