任意後見契約ー残念ながらいまひとつ普及しない印象です。
やはり法定後見の方が馴染むのでしょうか?
でも,親しい人にお願いすることができる任意後見契約はもっと検討されてしかるべきだと思います。
そういうことを考えているうちに,一旦締結した任意後見契約を解除する場合には問題がありそうだと気づきました。
契約締結同様に契約解除においても公証人の認証を受けた書面でする必要があります
(任意後見3条および9条1項)。
解除時点で本人の意思能力はどうなっているか?公証人はそれを確認せずに認証できるでしょうか?
やはり解除が真意に基づくといえるためには本人の意思能力を確認する必要がありそうです。
契約が自由であるように解除も自由ですから,被後見人Aからも任意後見人Bからも自由に解除できるはずです。
しかし,Bが「こいつ面倒だな」とか「やってられないよ」と感じたから解除できるというのはAの保護に欠けます。
この点,法は解除について正当事由の存在と裁判所の許可を必要としました(任意後見9条2項)。
その許可は審判事項でもあり,審判にあたって家庭裁判所はAとBの陳述を聴かなければなりません
(家事220条1項4号)。
条文を読んでいると,いかにAを保護するかを法が工夫していることに気づくことができます。
一方で,CがAに対して「Bは金銭にルーズで信用できない。大丈夫?」というように解除を促すことも考えられます。
CにAの財産に対する邪な気持ちがある場合などです。あわよくばAにとって代わりたい。
この場合は「正当な事由」(任意後見9条2項)の解釈の問題になるでしょう。
次に,Aの代理権の範囲を縮小したり拡張したりすることは可能か?という問題があります。
たとえば,法定後見の類型として保佐人の同意権拡張の審判はかなりスムースに認められる傾向にあります。
では任意後見はどうなるか?
実は,制度がありません。
だからいったん全部解除して新たな任意後見契約を締結することになります。
★ 文中の「任意後見●条」は「任意後見契約にかんする法律●条」のことです。
「家事●条」は「家事事件手続法●条」のことです。
★ 最初の写真は映画「犬神家の一族」で人気の犬神佐清です(演じたのはあおい輝彦さん)。
この映画には相続権や後見人という言葉が登場しましたが,法的にはかなりおかしなことになっていました。
被相続人犬神佐兵衛(三国連太郎さん)を野々宮珠世(島田陽子さん)が相続する条件は佐清ほか2名の
佐兵衛の孫と婚姻すること―そもそも佐兵衛の子でも配偶者でもない珠世に「相続」はできず,
3人の孫のいずれかとの婚姻という条件を付す遺贈もなにやら怪しげな・・・
世間で「相続」や「後見」が誤解を受けるのは無理からぬ印象です。