一部の貸金業者や債権回収業者は債務者離れが悪いようです。
消滅時効が成立していることが明らかなのに、訴えを起こします。
債務者(被告)が「もう時効だから」と出廷せず、かつ答弁書も提出しなければどうなるか?
債権者(原告)が訴状で求めたとおりの判決が出ます。
それが確定すれば、時効完成は10年先に。
債権者はこれを狙っています。
既に消えた債権を復活させているわけです。
もっとハッキリ書くと、ない債権を作り出しているのに等しい行為です。
裁判所はわかっていても、そういう行為を止める術がありません。
そうなると私たちに出番が回ってくるケースもあるのです。
私が債務者(被告)から依頼を受けた場合は、まず応訴します。
答弁書を管轄の簡裁に提出するのです。
すると、ある債権者は取下げを申し出るかもしれません。
取り下げれば、後日に再訴が可能です。
それに、提訴のときに納めた印紙代の半額の還付を受けることも可能になります。
債務者(被告)が答弁書をすでに提出していれば、取下げには債務者(被告)の同意が必要です。
債務者(被告)としては、消滅時効を援用して債権者(原告)の請求を棄却する判決をもらいたい。
その判決が確定すれば、債務者(被告)は完全に解放されます。
債務者離れが悪い貸金業者も債務者離れせざるを得なくなります。
よって取下げには不同意である旨を申し出ることになります。
こうして、債権者(原告)が納めた訴訟費用を使って、債務者(被告)は
「もう二度と訴えられることはない」
という安心を得ることができます。
貸金の契約をする際に、紛争が生じた際の裁判所をあらかじめ決める条項があります。
おおむね債権者(原告)にとって有利な取り決めがなされています。
訴訟の管轄裁判所を債権者の本社所在地に設定しているのです。
そこで、遠方の裁判所に訴えを起こされた場合は移送を申し立てます。
債務者(被告)の住所地を管轄する裁判所に事件を移すよう求めるのです。
債権者は企業で全国に支店があるようなこともしばしば。
一方の債務者は個人ですから、遠方の裁判所に出廷する資力がありません。
裁判所は双方の当事者の衡平をはかるために移送を認めるでしょう。
この移送の申立と上記の答弁書の関係は注意しなければなりません。
移送だけを申立てると、債権者(原告)が取下げを申し出た場合に取下げが認められてしまうのです。
そこで、答弁書を提出する必要があるのです。
債務者(被告)は請求棄却判決を求める意思を明らかにしたことになります。
債権者(原告)敗訴の判決を得たい債務者(被告)の立場は守られてしかるべき。
だから債権者(原告)の取下げが認められるには債務者(被告)の同意を要するわけです。
今回の事件でも債権者(原告)は予想どおり取下げを申し出ました。
私は「被告は不同意である」と書いた書面を提出しました。
結果として、こちらの思惑どおりに移送が決まりました。
おそらく債権者(原告)は出廷しないでしょう。
私が出廷し、提出しておいた答弁書を陳述して
「判決を出して下さい」
といえば、原告敗訴判決が出ることになります。
以上については、試験科目に民事訴訟法がある我々にとっては常識です。
が・・・「専門家」による相談サイトでのヘンな回答を目にしたことがあるのです。
その回答者(〇〇士)は「私見」と断ってはいましたが、
「原告の取下げの申出に対しては、答弁書を出しただけではダメである。
法廷で陳述されて初めて取下げに対する不同意の対応ができる」
というようなことを述べていました。
「私見」という表現にかなり自信なさげな印象を受け、ちょっと笑いました。
というわけでネット上の情報はアテにならないーというオハナシです。
この記事で私が述べていることは実際にあったことなので、ご信頼ください。
訴状が届いたら、必ず弁護士や司法書士にご相談を。
もちろん、私はいつでもお受けします。
★ 「時効警察」のオダギリジョーさんと麻生久美子さん