小田先輩
母校の先輩に小田剛一さんという方がいらっしゃるのです。
以前は届いていた同窓会名簿に職業として「俳優高倉健」と書いてありました。
世間では「健さん」と親しみをこめて呼ばれる映画史上に輝くスーパースターです。
亡くなって7年目,もうこんなに時間が経過したのか・・・と驚きました。
健さんの映画にかんしてはたくさんみています。
母校の大先輩だから「渡世の義理」があると考えたわけではありません。
健さんのたたずまいがカッコよかったからです。
俯き加減で短めのセリフ・・・男らしさ横溢ですが,実は長いセリフは苦手だったそうです。
気がついたのは,健さん映画というのは基本的に「男高倉健」を鑑賞するための作品だということです。
男高倉健を鑑賞する
「動乱」という226事件をモチーフにした映画があります。
226事件ゆえ決起した青年将校の政治思想や健さん以外の青年将校の群像劇かといえば違います。
男らしい男,日本人らしい日本人である「高倉健」を
女性らしさの象徴で常に清純な「吉永小百合」を鑑賞するための作品です。
「無口で不器用な男路線」は健さんが東映を退社してからも続き,それに拍車がかかった印象です。
相手役の女優は吉永さん,倍賞千恵子さん,そして晩年は田中裕子さん。
ほかにはいしだあゆみさんと大原麗子さんでしょう。
東映退社後に複数作品を共にした監督は佐藤純彌さんと山田洋次さんが各2作品。森谷司郎さんが3作品。
他のほとんどの作品では降旗康男さんと組んでいます。
また,北国を舞台にする作品も多かったと思います。
「幸せの黄色いハンカチ」「遥かなる山の呼び声」「駅STATION」「鉄道員(ぽっぽや)は北海道が舞台です。
「君よ憤怒の河を渉れ」でも北海道が登場しますし,「夜叉」は北国ではないものの雪が多い若狭地方が話の中心です。
「八甲田山」にいたっては,寒すぎるくらい寒い映像が続きます。
寒さ・・・これもまた小田先輩を「男高倉健」として輝かせる材料のようにみえます。
プログラムピクチャーの呪縛
健さんは東映のやくざ映画に飽き飽きしていたそうです。
善のやくざが悪のやくざをやっつけるプログラムピクチャーもまたファンに飽きられつつある時期でした。
「男高倉健」を強く印象付けた任侠プログラムピクチャー「昭和残侠伝シリーズ」が当たらなくなり,
東映が「仁義なき戦い」の大ヒットを機に実録路線に転じてからは
「山口組三代目」 「三代目襲名」 「神戸国際ギャング」
くらいにしか出ていません。前2作品は役名が「田岡一雄」です(!)。
プログラムピクチャーとの訣別という形になる東映退社後はやくざ映画ではない作品で不動の地位を築きました。
しかし,健さんが輝いたのは,なぜか過去にやくざだったり,犯罪歴がある役の場合です。
山田洋次監督と組んだ「幸せの黄色いハンカチ」では元受刑者,「遥かなる山の呼び声」では警察に追われる立場,
降旗康男監督と組んだ「冬の華」では出所してカタギになろうとするも再び極道の世界に舞い戻るやくざを,
「夜叉」ではカタギの漁師になったものの,愛人のためにやくざの世界に再び足を踏み入れる男を演じました。
健さんが犯罪を犯してもなぜか「やむを得なかった」「事情があったのだから理解できる」という感じにみえるのです。
ファンが求めるのは,結局のところは「男高倉健」を堪能できる映画,つまりプログラムピクチャーなのです。
自身とは無縁の世界に生きる健さんに対し何かを託す
ーこれが健さん映画すべてに共通するファン心理のように思います。
作る側もそれをわかっているのでしょう。
「昭和残侠伝」の主人公花田秀次郎と似ているか連想させるような役名を用意しています。
「冬の華」 加納英次 「駅 STATION」 三上英次 「居酒屋兆治」 藤野英治
「夜叉」 修治 「海へ~See You~」 本間英次
「ホタル」 山岡秀治 「あなたへ」 倉野英二
健さんはそこからさらに別世界を目指して苦しんでいたようにみえます。
「あ・うん」(門倉修造役)はその脱皮を狙った作品かもしれません。
しかし,NHKのドラマで杉浦直樹さんが達者に演じた役は健さんにいまひとつ似合っていませんでした。
市川崑監督の「四十七人の刺客」(大石内蔵助役)では慣れない時代劇に苦労されている印象が残りました。
市川演出は健さんに合わないなぁ,という感想を抱いたことを憶えています。
結局,健さんは降旗監督しか自分に合わないという結論を出したのかもしれません。
上記の花田秀次郎っぽい役名のうち「海へ~See You~」を除いては降旗作品です。
花田秀次郎をひきずってしまっていたようにもみえなくもありません。
やはり大スター!
残念ながら「鉄道員(ぽっぽや)」「ホタル」は映画としては退屈だったし,健さんも精彩を欠いていたように思います。
ですが,世間では「男高倉健」をみることができれば満足で,結局のところは健さんもそれを続けたようでした。
そういう意味では実に器用でうまい生き方だったようにも感じます。
そして,今いろいろな作品をみると,健さんは演技者としては決して器用ではないことがわかります。
いつでも「男高倉健」です。
小田先輩は陽気でおしゃべりで,ちょっと気難しいヒトだったそうですが,映画の健さんにそういう印象はありません。
いつも無口で不器用な生き方しかできない「男高倉健」です。ワンパターンといってしまえばそうかもしれません。
しかし,健さんがスクリーンに登場するや否やもう誰も文句を言えないような存在感でみる側を納得させてしまいます。
そういう迫力を持っていることに改めて気づきます。それをオーラというのでしょう。
健さんが大スターたる所以です。
こういう大スターはもう現れないような気がします。それだけの存在感が「高倉健」にはありました。
私が好きな作品・・・それは「昭和残侠伝 死んで貰います」「冬の華」「遥かなる山の呼び声」の3本です。
お正月に正座して観賞すべきは「八甲田山」,エンタテインメント作品を楽しむとすれば「新幹線大爆破」でしょう。