苦情の発生原因
仕事のスタイルを確立するうえで、依頼者との信頼関係構築は最重要課題です。
これが自然にできる方法、それを学ぶとすれば「紛争解決」に関与することでしょう。
私は損保会社勤務時代のほぼすべてを紛争解決の世界で過ごしました。
利害が対立する相手方、つまり自社の保険契約者Aの事故の相手Bとの交渉には熱心。
だから担当者は懸命に交渉し、Aの利益を守ろうとします。
その中でBから苦情が入ります。
利害対立があり、担当者との交渉で不利に立った場合、
「対応が悪い」
ということにされるのです。
これは、担当者の対応が悪いケースはほとんどありません。
寧ろ、しっかり対応していて褒めていい場合ばかりです。
Bは自らの主張に無理があるため、担当者の対応の問題にすり替えているのです。
だから、この場合の「対応が悪い」は、実は苦情でもなんでもないのです。
ところが、Bと懸命に交渉している中でAから苦情が入る例があります。
「Bから文句を言われた。お宅らの対応が悪いと言っている。どうなっているのだ?」
不利になったBが、Aを責める手段として「対応が悪い」ことにしてしまうケースです。
これも、担当者には問題がなさそうですが、実は大きな問題が隠されています。
もう一つ、担当者は真面目に交渉していてもAから苦情が入ることがあります。
この二つの根っこは同じ。
Aには担当者の懸命の交渉が見えていないのです。
担当者は交渉に熱心ではあるものの、自らの仕事ぶりをAに伝えていません。
Bから文句を言われたAは、それを鵜呑みにするのです。
あるいは、状況がなにもわからないままゆえ不安なA。
不安が不満に変わってしまうと苦情を申し立てることになるでしょう。
担当者はどうすればよかったか?
答えは簡単で、Aに対して経過を報告しておけばよいのです。
「ああ、自分のために頑張ってくれているな」
Aがこう思ってくれれば、Bが何をいおうとAは動じません。
経過がわかっている以上、不満も生じません。
おそらく、「Bは頑固だな」とか「いい加減に非を認めればいいのに」と思うでしょう。
紛争解決では、ついつい交渉相手ばかりに関心を持ってしまうのです。
でも、Aこそが大事。Aを守る仕事なのですから。
Aに「守られている」という安心感を届けてこその保険会社でしょう。
Bと交渉するのは当たり前のことです。
評価が一変した担当者の話
私が管理職になって2箇所目の任地で、着任早々に営業部門からいわれました。
「あの社員をなんとかやめさせてほしい。代理店から苦情が入りっぱなしだ」
物損事故の担当をしている女性のことでした。
私はしばらく様子をみてみます。
彼女は非常に熱心に交渉しています。
Bに相当する人、あるいはB側の保険会社と。
ところが、Aに対する報告をしていないのです。
結果的に、交渉が大詰めになり合意のラインが示されてAに同意をもらおうにも・・・
Aは不満を感じているので、そこで話が頓挫するーこういう事態が起きました。
そこで、私は常にAに相当する人に経過報告をするよう彼女に命じました。
Aだけでなく保険代理店にも情報を提供することも徹底させました。
1か月ほどで彼女の担当件数は大幅に減少したのです。
つまり、処理が進んだのです。
代理店からの評価も一変しました。
彼女の依頼には代理店も応えてくれるようになっていきました。
それこそ「無理難題を主張するA」には代理店が説得してくれたり。
営業部門からも高く評価されるような担当者になったのです。
仕事のプロセス開示
私はあまり好きではない表現ですが、「仕事のみえる化」です。
経過報告をすれば、依頼者は安心します。
問題があれば共有し、一緒に解決策を考えます。
依頼者の当事者意識も失われません。
これは司法書士業務にもそのまま当てはまるのです。
経過報告をすることで、司法書士が仕事を前に進めていることを実感する。
そうすれば、司法書士への信頼感は高まります。
福岡県司法書士会にはたまに会員である司法書士への苦情申立てがあります。
そのほとんどは経過報告を怠っているがゆえに起きる苦情です。
登記申請などは、それほど依頼者に不安感を抱かせることはないのでしょう。
でも、
「今日申請しましたよ」
「法務局の日程表では再来週の月曜日が完了の目処ですよ」
くらいは知らせておきたいもの。
紹介者にも「〇〇様の件は今日の午後に申請できましたよ」と。
登記に紛争が絡むケースはごくまれにしかありません。
だから、登記専門でやっていると依頼者への経過報告にはそれほど気を使わないかもしれません。
けれど、登記に関する苦情もまた経過報告で防ぎ得るものばかりなのです。
そして、経過報告をスケジュール化すれば、その日までには一定の進捗が必要になります。
だから、仕事を放置してしまうようなことも起きなくなります。
経過報告は当たり前
依頼された事件のキーになる人に対しては経過報告ー私はごく当たり前だと思っています。
だって、おカネをくれる人たちなのですから、大事にしないと。
これは半分冗談ですが、プロとしてきっちりやっていることを理解していただく。
これもまたプロの作法だと思うのです。
目の前の仕事だけに関心を持つのではなく、自分の後ろに配慮できてこそプロ。
お読みになっておわかりかもしれませんが、紛争解決に関わると経過報告抜きでは済まないのです。
だから、経過報告の重要性を実感し、それを身につけるには紛争解決に関与しましょう
ーということを勧めます。
経過報告が十分でない人は、プロ以前に社会人としてちょっと甘すぎますね。
私はこう思っています。
★ 映画「ミンボーの女」の中尾彬さん