信託契約を使う場面は限定的であるーこう書いたら、仲間内から指摘を受けました。
「信託がハマるケースがありますよ」
それはどういうケースか?
障害のある子供のために、親が財産を信託するケースだというのです。
X一家の夫Aと妻Bの間には子C、D、Eがいるという例。
この中でDに重度の障害があるという設定です。
AとBは自分たちが亡くなった後のDを心配しています。
そのためにDの生活費として財産を遺すにしても、D自身で管理ができません。
そこで姉Cや弟Eに託したいのです。
委託者A、受託者C、受益者Dのような形を考えようということのようでした。
さて、本当にこれが「ハマるケース」なのか?
問題は、CとEにもそれぞれの人生があるということです。
彼らにDに関する負担をずっと負わせることが適切なのか?
あるいは、彼らがそれを受け容れるか?
兄弟愛に溢れる関係であれば、受け容れるかもしれません。
障害がある兄弟姉妹に対する他の兄弟姉妹の態度は一般にやさしく愛情に溢れています。
だから大丈夫・・・かも。
とはいえ、人はそれぞれです。ことはそう簡単ではありません。
仮に、Xさんたち一家が田舎に住んでいるとしましょう。
田舎の方の「通念」はより古いままなのです。
CがY家の長男Rと結婚しました。
「Cはよその家の人間になった」
「私はY家の長男の嫁だから」
こういう観念がまだ生きていて、X家の人間ではなくなったような気持ちを持つようなのです。
特に「長男の嫁」である以上、責任は重大という扱いです。
舅Pと姑Qの介護は勿論、Rの弟Sの結婚の世話や集落の集まりで・・・非常に忙しいのです。
一方、Dの弟Eは都会の大学に進みます。
将来は、世界をまたにかけた商社マンとして活躍するつもりです。
そうすると、勤務地は東京と大阪に世界各地。田舎に帰る予定はありません。
「おまえは長男だから家を継いで、姉Dの面倒をみんといかんぞ」
「お父さんのような考え方はもうあり得ないでしょう。昭和の初期の話ですか?」
父Aとは口論になるのが常です。
「C姉ちゃんは隣町にいるのだから、C姉ちゃんがD姉ちゃんの面倒をみればいいじゃないか!」
「CはもうY家に嫁に出したんじゃ。おまえはXの家を継ぐ立場・・・」
田舎だけの問題かといえば、都会でも同じです。
実は、田舎でなくても「X家」「Y家」の観念は根強く残っているのです。
AとBがDの姉Cや弟Eをあてにすると、彼らの人生に影響が出ます。
そうすると、信託契約そのものが成立しない可能性があるのです。
CもEも受託者になりたがらないー親子でいがみ合う結果になるかもしれません。
AとBは、CとEの将来が制約を受けないようにするために、Dの行く末をある程度決めるべきです。
Dに重度の障害があるとすれば、適切な施設への入所や医療機関への入院が必要でしょう。
そういった場でDが生活をしていくための財産管理をどうするか?
後見制度の利用で十分対応できるのです。
後見制度であれば、専門職後見人に任せることができます。
施設等との契約問題や費用の増減についても問題なく対応できます。
そして、家庭裁判所の監督下での後見業務ゆえ心配はないといえるでしょう。
一方の信託であれば、たしかに信託監督人協会が存在しますが、監督機能がどこまで働くか。
あくまでも民間団体ゆえ命令ができたり、強制力を働かせることはできません。
というような話をしてみたら、「ハマるケースがありますよ」と指摘してくれた同業者さんは・・・
「そうですね、後見制度でOKですね」
と納得してくれました(あっさりと)。
AとBは遺言書でDに財産を遺し、後見制度を利用して管理する。
これで十分でしょう。
★ 「ハマる」なのでミッキー・スピレインの私立探偵マイク・ハマー
これは映画「ガールハンター」の米国版ポスター