福岡県糸島市 司法書士 ブログ

なぜやらないんですか?

問われたことがあります。

「先生はなぜ信託業務をやらないんですか?」

私は答えました。

「まず、それほど必要ではないと思うからです」

「次に、司法書士業務としての位置づけが難しいのです」

意外に納得していただけずに食い下がられました。

「いやあ、先生はそういう新しい法律とかに対応しそうな感じなんっすけど」

これに対して私は答えました。

「たしかに今の信託法は17年くらい前に改正されたものだけど・・・」

 

実は、信託法の歴史はもっと古いのです。100年前の法律なのです。

 四宮和夫教授の「信託の研究」は1965年の論文集

  四宮教授の「民法総則」(弘文堂)は一世を風靡しました。

  鋭い分析で通説に対するアンチテーゼを打ち立てた書物ですが、難解です。

  能見善久教授が改訂を重ね、今も出版され続ける名著です。

民事信託のニーズの高まりから改正されたのが2006年。

その結果、妙な宣伝が始まりました。

「今までできなかったことができる信託」

「夢のような制度」

おいおい!と突っ込みたくなるような(笑)。

実は、司法書士になる直前にはこの制度に関心を抱いていました。

そして、九州地区での研修を受けます。

その頃に気づいたのです。

「なんだ、これって使える場面が限定的だな」

 

そうなのです。

実は、信託を使う場面は非常に限られています。

●受益者連続信託で将来の受益者を指定できる。

「自分の財産の将来の行方を指定できますよ!」

自分の財産の行先は遺言書でOKでしょう。

その先は、相続したり遺贈を受けた人のご自由に。

孫の代まで口出ししたい人は、実はほとんどいません。

●アパート経営をしている高齢者がアパートを子供に信託する。

「これでおばあちゃんが認知症になっても安心です」

いやいや、お元気な今のうちに管理を委託する契約を子供としておけばよい。

信託契約書を司法書士が起案し、さらにアパートの所有権移転登記まで。

それは儲けすぎ。そこまでしなくてもOKなのです。

管理委託契約をする。これで十分です。

あとは遺言書を作るかどうか。

●そろそろ父親の認知症が気になり始めた。

「信託で娘さんに所有権を移し、売却したらその利益を施設入所やその後の生活に」

これはたしかに使えるケースがある・・・かもしれません。

でも、これも信託によらずとも対応は可能なのです。契約のひと工夫で。

 

信託契約の起案等については、司法書士はまあまあ高めの報酬を設定しています。

マニアックな世界で、それほど多くの司法書士が扱わないためかもしれません。

面倒さもたしかにあります。

でも、ここで考えるべきは、信託がなぜマニアックな世界にとどまっているか、です。

これは、使えるケースが非常に少ないことを示しているといえるでしょう。

日本法令が出していた「家族信託実務ガイド」という季刊雑誌は休刊しました。

今は家族信託普及協会がWEBで発行しています。

つまり、売れないのでしょう。

ということは、手がける司法書士や弁護士は少数なのです。

私の周囲でも信託については業務からはずしているという方々が少なくありません。

反対に、信託の普及に熱心な方もいらっしゃいます。

この違いは考え方の違いでしかありません。

どちらが正しいか?という話ではないのです。

 

私が扱わない理由は冒頭のとおり。

使えるケースが少なすぎるのです。

前にも述べたことがありますが、資産が多い方は管理会社を作る。

資産が少ない方は信託までする必要性がない。

その中間くらいの方にニーズがないわけではない程度です。

そして、なによりも依頼を受ける場合は、依頼者の利益を重視する。

そうすると、多めの報酬を頂く可能性がある信託ではなく、お安くできる別の手段を、となります。

私が憲法学におけるLRAの基準の考え方に影響されているような気がしなくもありません。

「制限的でない他の選びうる手段」みたいに「高額にならない他の選びうる手段」を考えるので。

また、最近は信託を司法書士の財産管理業務に無理やりはめ込んでいるようですが、異論あり。

司法書士が受託者として財産を管理するわけではないのです。

せいぜいが、財産管理サポート業務くらいです。

契約書の起案にしても、絶対タブーの双方代理の問題が生じかねない危うさを孕んでいます。

やらずに済めばやらないでおく。

私のスタンスはこういう感じです。

冒頭の「なぜやらないんですか?」の問いにはこれらをかみ砕いてお話しました。

おおむね納得して下さったようです。

「どうしても信託契約を、ということであれば、適切な事務所を紹介します」

「でも、その先の責任は負いかねます」

こう結んでおきました。

 

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